同じく、昨年夏には日本の衛藤晟一ら保守系国会議員14人が連名で「(南京記念日制定は)関係国間で好ましくない論争を引き起こす可能性がある」と主張する書簡をオンタリオ州議会に送ったが、やはりほぼ無視された。AEは少なくとも表向きは中国政府との癒着を感じさせない組織なので、この批判もまた的外れだったのだ。
「オンタリオ州議会は1998年にホロコースト記念日を制定しています。南京大虐殺もまた、アジアで発生した人類の暴挙ですから、同様に記念されるべきではないでしょうか」
フローラは南京記念日の制定を求める理由を、このような論理で説明している。こうしたクリーンでインテリ受けのいい社会運動に、強面の姿勢で対抗しても効果は上がりづらく、むしろ日本への悪印象を強める可能性すらある。
トロントに限らず、世界各地で中国系・韓国系の移民たちによって、新たな歴史戦が展開されている。現実の日本と接点がない人たちが多いだけに、煽動的な情報を無批判に受け入れ、広めてしまいやすい。
AEは、対話自体は可能な組織だ。政府が有識者を現地に派遣し、当該団体と継続的な対話を持つなかで日本の立場を論理的に説明し続けるなど、より現地のカルチャーや相手組織の性質に合わせた沈静化作戦が求められているはずだ。
※文中敬称略
【プロフィール】やすだ・みねとし/ノンフィクションライター。1982年滋賀県生まれ。立命館大学文学部卒業後、広島大学大学院文学研究科修了。当時の専攻は中国近現代史。著書に『和僑』『境界の民』『野心 郭台銘伝』など。
※SAPIO 2018年3・4月号