やがて国光や舎弟達と内偵がてら酒を酌み交わし、その一本気な人柄に日岡は魅せられていく。その一方で祥子に幼い恋心を寄せられ、川で溺れかけた彼女の従弟を助け表彰されたりもした。が、実はその時、真っ先に川に飛び込んだのも一緒に釣りをしていた国光達で、彼らのシャツ越しに浮かぶ背中の彫物を慌てて隠し、自分が救助者として名乗り出た日岡は大上同様、警官失格かもしれない。しかし人としてはどうなのか―。それが本シリーズを通じた最大の問いでもある。
◆価値観の違いは間違いではない
「ヤクザと堅気、あるいは警察官など、社会的立場や利害を越えた濃密な人間関係が、私がこのシリーズで最も書きたいものでした。特に本作は暴力団対策法(平成4年)前夜が舞台で、それ以降は極道の在り方も一変する。もちろん日岡という男を描く以上、暴対法のことも彼が直面する事実として触れていますが、やはり昭和っぽい熱量のある関係に惹かれる傾向はあるかもしれません(笑い)」
初対面の時、〈ちいと時間をつかい〉と言った国光には、自らの身の安全以上に守りたい何かがあるらしい。が、タレコミによって警官隊に包囲され、現場事務所に立てこもった国光らは、人質と逃亡資金を要求。時間を稼ごうとする国光とこの時に交わした新たな約束が、日岡の財産となるのだ。
「人と人の結びつきが立場を越えることはよくあるし、結局どんな組織にいようと個人が大事だと私は思う。ところが今は自分の意見や感情を表に出すことや、他者との摩擦を必要以上に怖がる風潮があります。そうかと思うと匿名の書き込みの類は加速する一方です。でも価値観の違いは決して間違いではありません。私はもっと『自分』を率直に表現していいと思うんです」