国内

池上彰氏 小学校での道徳教科化で「忖度力の養成」を懸念

「道徳」の教科化に疑問を呈す池上氏

 これまでの小学校には、教科外活動として「道徳の時間」があったが、2018年度から教科化された。早稲田大学教職大学院客員教授・開智国際大学教育学部准教授の遠藤真司さんは、経緯をこう語る。

「いじめによる自殺などが社会問題となり、いじめ防止対策推進法(2013年施行)が制定されると共に、“今まで以上に子供たちに道徳心を身につける必要がある”という機運が高まりました。教科外活動だと、評価がつくわけでも教科書があるわけでもありませんし、学校側としてもどうしても比重が軽くなってしまう。学校行事などの準備、練習に振り替えられてしまうということもあったため、きちんと教科として時間を確保したいということなのでしょう」

 善悪の判断や思いやり、伝統や文化、国際理解、自然愛護など、学習内容は多岐にわたる。気になるのは成績をどうつけるかということ。

「いわゆるABC評価のような順位や序列をつける形式ではなく、成績は記述式で“○○な側面が成長した”などとなります。考え、議論することを目的としているので、他の子の意見を聞き、考えを広げることが大事になってくると思います」(遠藤さん)

 道徳の教科化について、池上彰さんはどう見ているのだろうか。

「道徳は、私が小学生のときに導入されました。その当時は、戦前に教えられていた修身のような国家主義的な色彩を帯びる恐れがあると批判の声が高かったので、“教科にはしない”という前提で導入されました。その後、少年事件やいじめのニュースがあるたびに『最近の子供たちには道徳心がない』とか『いじめが増えている』という議論が起こり、道徳を教科にすることになったのです」(池上さん)

 しかし、池上さんはその議論自体に疑問を持つ。

「警察白書(警察庁)によると、刑法犯少年の検挙数は、2007年の10万3224人から、2016年には3万1516人と、ここ10年でも格段に減っています。また、国立教育政策研究所の分析では『いじめの件数は増えていない』という結果が出ている。つまり、“根拠なき議論”です。日本はデータに基づかない印象論で政策が決まるという大きな問題点を抱えていますが、道徳の教科化はまさにそれを体現したといえます」(池上さん)

 教科になったからには、テストがあり、成績もつく。物事についての多様な考え方を学ぶはずの「道徳」で果たして成績をつけることができるのだろうか。

「十人十色あっていいはずの生き方や考え方、価値観が“評価”されることになります。子供たちは賢いですから、先生が求める“正解”を察知します。結局、全国の学校で“忖度力”を養成することになりかねません。まあ、財務省の官僚を養成するにはいいもかもしれませんが──。

教える先生たちは、“世の中に唯一の正解などはない。いろんな正解があり、いろんな不正解がある。どんな答えが求められているのかを探るのではなく、自分の頭で考え抜く習慣をつけよう”と働きかける必要があると思います」

※女性セブン2018年5月31日号

関連記事

トピックス

割れた窓ガラス
「『ドン!』といきなり大きく速い揺れ」「3.11より怖かった」青森震度6強でドンキは休業・ツリー散乱・バリバリに割れたガラス…取材班が見た「現地のリアル」【青森県東方沖地震】
NEWSポストセブン
前橋市議会で退職が認められ、報道陣の取材に応じる小川晶市長(時事通信フォト)
《前橋・ラブホ通い詰め問題》「これは小川晶前市長の遺言」市幹部男性X氏が停職6か月で依願退職へ、市長選へ向け自民に危機感「いまも想像以上に小川さん支持が強い」
NEWSポストセブン
3年前に離婚していた穴井夕子とプロゴルァーの横田真一選手(Instagram/時事通信フォト)
《ゴルフ・横田真一プロと2年前に離婚》穴井夕子が明かしていた「夫婦ゲンカ中の夫への不満」と“家庭内別居”
NEWSポストセブン
二刀流かDHか、先発かリリーフか?
【大谷翔平のWBCでの“起用法”どれが正解か?】安全策なら「日本ラウンド出場せず、決勝ラウンドのみDHで出場」、WBCが「オープン戦での調整登板の代わり」になる可能性も
週刊ポスト
高市首相の発言で中国がエスカレート(時事通信フォト)
【中国軍機がレーダー照射も】高市発言で中国がエスカレート アメリカのスタンスは? 「曖昧戦略は終焉」「日米台で連携強化」の指摘も
NEWSポストセブン
テレビ復帰は困難との見方も強い国分太一(時事通信フォト)
元TOKIO・国分太一、地上波復帰は困難でもキャンプ趣味を活かしてYouTubeで復帰するシナリオも 「参戦すればキャンプYouTuberの人気の構図が一変する可能性」
週刊ポスト
世代交代へ(元横綱・大乃国)
《熾烈な相撲協会理事選》元横綱・大乃国の芝田山親方が勇退で八角理事長“一強体制”へ 2年先を見据えた次期理事長をめぐる争いも激化へ
週刊ポスト
2011年に放送が開始された『ヒルナンデス!!』(HPより/時事通信フォト)
《日テレ広報が回答》ナンチャン続投『ヒルナンデス!』打ち切り報道を完全否定「終了の予定ない」、終了説を一蹴した日テレの“ウラ事情”
NEWSポストセブン
青森県東方沖地震を受けての中国の反応は…(時事通信フォト)
《完全な失敗に終わるに違いない》最大震度6強・青森県東方沖地震、発生後の「在日中国大使館」公式Xでのポスト内容が波紋拡げる、注目される台湾総統の“対照的な対応”
NEWSポストセブン
安福久美子容疑者(69)の高場悟さんに対する”執着”が事件につながった(左:共同通信)
《名古屋主婦殺害》「あの時は振ってごめんねって会話ができるかなと…」安福久美子容疑者が美奈子さんを“土曜の昼”に襲撃したワケ…夫・悟さんが語っていた「離婚と養育費の話」
NEWSポストセブン
《悠仁さまとの差》宮内庁ホームページ“愛子内親王殿下のご活動”の項目開設に「なぜこんなに遅れたのか」の疑問 皇室記者は「当主の意向が反映されるとされます」
《悠仁さまとの差》宮内庁ホームページ“愛子内親王殿下のご活動”の項目開設に「なぜこんなに遅れたのか」の疑問 皇室記者は「当主の意向が反映されるとされます」
週刊ポスト
優勝パレードでは終始寄り添っていた真美子夫人と大谷翔平選手(キルステン・ワトソンさんのInstagramより)
《大谷翔平がWBC出場表明》真美子さん、佐々木朗希の妻にアドバイスか「東京ラウンドのタイミングで顔出ししてみたら?」 日本での“奥様会デビュー”計画
女性セブン