特に梅毒では、感染後3か月程度経過しないと、目に見えた“症状”を自覚しづらく、感染者が気づかないまま、菌をばらまき続けるといった例が後を絶たない。さらに困るのは、まさか自身が「梅毒にはかかっていないだろう」という甘い認識を持った人々の存在だ。彼らは外国人とは限らない。日本人の客でも、探せば情報はいくらでもあるのに、感染症に対する無知と無神経が目に余る。
「お客さんの中には、ある程度“病気”の認識を持ったまま、性風俗店を利用する人もいる。性器を見て異変を指摘しても、“梅毒なわけないよ”とか“薬飲めば治るし”などという人もいる。自覚症状があるにも関わらず、どうせ大したことないだろうというお客さんが増えています。会話の中でそういった“自覚症状”のあるお客さんだとわかった場合、サービスを断ることもりますが、身体的な異変もなく“少しおかしいな”程度の認識しかないお客さんは見抜けない。本当に怖いんです」
関西の性風俗店に勤務する女性が訴える。昨年、多くの外国人観光客を相手にした後、ほどなくして梅毒に感染していたことが発覚し、退店を余儀なくされた。服薬治療によって完治したというが、単なる“性病”とは違う、梅毒の恐ろしさを自ら体験し、恐怖から二度と性風俗店で働けなくなったと話す。
「正直、他の性病にかかったこともあって“梅毒”と言われてもふーん、という感じでした。病院で、脳や心臓にも影響があることを知り、まさに死に直結する病気なのだと知らされ、認識を改めました。このことを知らない人が多すぎるのです」
当然この女性との性交渉によって梅毒に感染した男性客が存在する可能性もある。しかし、彼女自身がいつどこで、そして誰から感染したかなど知る由もなく、そして誰にうつしたかも、誰にもわからない。食中毒を起こした飲食店であれば、保健所が検査に入り原因を究明し、利用客に注意喚起できよう。性風俗店で、それは不可能だ。
このような状況でありながらも、国は有効な対応策を打ち出せずにいるというのだから、事態は思った以上に深刻である。性風俗店を一切利用しない、だけでは感染拡大は防げない。いつどこ、誰から感染させられるか、まったくわからないからこそ、早期の検診をするなどして、自衛するしか残された方法はないのだ。