虚ろに明るい未来にも、生命尊重の「ヒューマニズム」だけは健在、「長生きは健康に悪い」という語義矛盾のキャンペーンくらいしかできない。昔「おりん婆さん」は、村の掟に従って口減らしのために、数え七十になった正月(満では六十八)楢山へ捨てられに行ったが、現在(将来)はどうか。
〈「いつまでもお元気ですね」って、お元気やってる方の身になってみろ〉と悪態をつきながらラーメン屋の前に列をつくって並んでいると、〈暖簾の向こうから、死神が顔を出して、「次の方どうぞ」〉、そんなふうにようやく死ねる。
この「老人ユーモアSF」はリアルだ。笑いながら読む人の心胆は寒いのは、もはや進歩に何の期待も持てず、永らく戦後日本人を支えてきた「頑張り」が有害無益となったからだ。
※週刊ポスト2018年6月1日号