スポーツ

日大宮川選手を追い詰めた監督やコーチの「トンネル」

日大宮川選手を追い詰めたものとは?(写真はイメージ)

 臨床心理士・経営心理コンサルタントの岡村美奈さんが、気になった著名人をピックアップ。記者会見などでの表情や仕草から、その人物の深層心理を推察する「今週の顔」。今回は、日大アメフト部の宮川選手の謝罪会見をクローズアップ。

 * * *
 アメリカンフットボールの定期戦で、悪質な反則行為で関西学院大学の選手を負傷させた日本大学の宮川泰介選手が、都内で会見を開き、ケガをさせた選手や保護者、関係者に謝罪した。顔を出し、実名公表での会見は「顔を出さない謝罪はない」という本人の希望だった。

 会見場に現れた宮川選手は、黒のスーツ姿。冒頭、同席した弁護士から、会見に至った経緯などが説明されるのを緊張した面持ちで聞いていた。それが終わると、立ち上がって謝罪の言葉とともにまっすぐに顔を上げると、大きな身体を小さく縮めて深々と頭を下げた。その姿に真実を話すことへの迷いは見られない。

 試合までの内田監督や井上コーチらとのやり取り、自分の心理状況などを落ちついた口調で話す。覚悟を決めているという印象だ。反則行為をしてしまった理由を自分の弱さとした上で、「追い詰められていたので、やらないという選択肢はなかった」と、目線を落とす。彼が最後の一線を越えてしまうほど、追い詰められたのはなぜなのだろう。

 宮川選手が置かれていた状況をみると、心理学者メラリが言う「トンネル」というプロセスに似ていたことがわかる。トンネルはマインド・コントロールで使われるプロセスだ。理性ある普通の若者がテロリストに作り替えられるまでのプロセスを、トンネルを通ることに例えているのだが、実はこれ、そんな危険な目的だけでなく、日常の様々なところで、目標や目的達成のために用いられている。例えばスポーツチームやクラブ、日大アメフト部に所属することもトンネルに入るという意味になる。

 このトンネルについて、精神科医の岡田尊司氏は、その著書『マインド・コントロール』(文春新書)で2つの要素があると述べている。

1つはトンネルが外部から遮断された小さな世界だということだ。日本代表にまで選抜されていた宮川選手にとって、アメリカンフットボール部のチームという小さな集団の中での関係が最も重要であり、それが彼の生活のすべての基準であったのだろう。そうなるとそこでのルールや価値観が、彼にとっての価値基準になっていたと推測できる。

 もう1つは、トンネルには入れば出口という1点に向かうしかないということだ。1点に向かって進んでいくうちに、周りから遮断された環境で、いつの間にか視野狭窄を生じさせるのだという。アメフト部というトンネルの中で、選手として試合に出る、試合に勝つという1点に彼の目は向いていたと思うのだ。

関連キーワード

関連記事

トピックス

6年ぶりに須崎御用邸を訪問された天皇ご一家(2025年8月、静岡県・下田市。撮影/JMPA)
天皇皇后両陛下と愛子さま、爽やかコーデの23年 6年ぶりの須崎御用邸はブルー&ホワイトの装い ご静養先の駅でのお姿から愛子さまのご成長をたどる 
女性セブン
「最高の総理」ランキング1位に選ばれた吉田茂氏(時事通信フォト)
《戦後80年》政治家・官僚・評論家が選ぶ「最高の総理」「最低の総理」ランキング 圧倒的に評価が高かったのは吉田茂氏、2位は田中角栄氏
週刊ポスト
コンサートでは歌唱当時の衣装、振り付けを再現
南野陽子デビュー40周年記念ツアー初日に密着 当時の衣装と振り付けを再現「初めて曲を聞いた当時の思い出を重ねながら見ていただけると嬉しいです」
週刊ポスト
”薬物密輸”の疑いで逮捕された君島かれん容疑者(本人SNSより)
《28歳ギャルダンサーに“ケタミン密輸”疑い》SNSフォロワー10万人超えの君島かれん容疑者が逮捕 吐露していた“過去の過ち”「ガンジャで捕まりたかったな…」
NEWSポストセブン
公選法違反の疑いで刑事告訴され、書類送検された斎藤知事(左:時事通信フォト)と折田楓氏(右:本人SNS)
“公選法違反疑惑”「メルチュ」折田楓氏の名前が行政SNS事業から消えていた  広島市の担当者が明かした“入札のウラ側”《過去には5年連続コンペ落札》
NEWSポストセブン
中居正広氏の近況は(時事通信フォト)
反論を続ける中居正広氏に“体調不良説” 関係者が「確認事項などで連絡してもなかなか反応が得られない」と明かす
週刊ポスト
スーパー「ライフ」製品が回収の騒動に発展(左は「ライフ」ホームページより、みぎはSNSより)
《全店舗で販売中止》「カビだらけで絶句…」スーパー「ライフ」自社ブランドのレトルトご飯「開封動画」が物議、本社が回答「念のため当該商品の販売を中止し、撤去いたしました」
NEWSポストセブン
「地面師たち」からの獄中手記をスクープ入手
「全てを話せば当然、有罪となっていたでしょう」不起訴になった大物地面師が55億円詐欺「積水ハウス事件」の裏側を告白 浮かび上がった“本当の黒幕”の存在
週刊ポスト
大谷と真美子さんを支える「絶対的味方」の存在とは
《大谷翔平が“帰宅報告”投稿》真美子さん「娘のベビーカーを押して夫の試合観戦」…愛娘を抱いて夫婦を見守る「絶対的な味方」の存在
NEWSポストセブン
“地中海の楽園”マルタで公務員がコカインを使用していたことが発覚した(右の写真はサンプルです)
公務員のコカイン動画が大炎上…ワーホリ解禁の“地中海の楽園”マルタで蔓延する「ドラッグ地獄」の実態「ハードドラッグも規制がゆるい」
NEWSポストセブン
『週刊ポスト』8月4日発売号で撮り下ろしグラビアに挑戦
渡邊渚さん、撮り下ろしグラビアに挑戦「撮られることにも慣れてきたような気がします」、今後は執筆業に注力「この夏は色んなことを体験して、これから書く文章にも活かしたいです」
週刊ポスト
強制送還のためニノイ・アキノ国際空港に移送された渡辺優樹、小島智信両容疑者を乗せて飛行機の下に向かう車両(2023年撮影、時事通信フォト)
【ルフィの一味は実は反目し合っていた】広域強盗事件の裁判で明かされた「本当の関係」 日本の実行役に報酬を支払わなかったとのエピソードも
NEWSポストセブン