周五郎は昭和十八年(四十歳)、『日本婦道記』が第十七回直木賞を受賞と決定したが、辞退した。後にも先にも直木賞を辞退した作家は山本周五郎だけである。周五郎は「曲軒」(へそ曲り)というあだ名をつけられた「意固地」な人であった。沢木氏は大学卒業後、会社を一日で辞めて、あらゆる組織、集団に属さない「意地」をつらぬいた。そこには周五郎の姿が重なる、と回想している。
短編集だから一編を三十分ほどで読める。第一巻の「おさん」を通勤電車で読みふけるうち、夢中になって下車駅(国立)を通りすぎて、つぎの立川駅まで行ってしまったことを白状しておこう。
※週刊ポスト2018年6月22日号