「今働いている施設では“ゴホンゴホン”と咳き込むと事故扱いとして、家族に報告していますが、以前働いていた施設では誤嚥を起こしても、背中を叩いて解消できれば、家族には報告していませんでした。施設によって、報告基準はバラバラです」
間違った薬を飲んでしまった、薬の飲み忘れがあった場合は「誤薬」になる。老人ホームでは多くの人が日常的に複数の薬を服用している事情もあり、事故件数は3726件に上る。
「薬の“飲み忘れ”については、医師に相談し、別の時間に飲み直して問題がなければ、家族には報告していません」(関西地区・介護付き有料老人ホーム施設長)
健康上問題が起きていなければ“伝えなくていい”と考える施設は多い。その意味で典型的なのが、施設を抜け出し、“行方不明”になる「離設」。離設は年間228件、うち死亡は6件もあった。離設後、交通事故に遭ったり、帰り道が分からなくなり行き倒れて命を落としてしまうケースである。
今年1月には群馬県の老人ホームに入居していた認知症の81歳の女性が行方不明になり、死亡する事件が発生した。だが、施設によっては「離設」を家族に報告しないケースもある。
「居なくなっても、10分後に目の前のバス停で発見されたので“いつもの散歩だよね”と済ませることはよくあります」(都内介護付き有料老人ホーム・パート職員)