それでも、関心を持ち続けることは力になる。「夢」の灯が消えそうになっても、新たに薪を投じてくれる人が現れるのだ。
ある番組で、自閉症のTさんを紹介した。Tさんは、小さなときから「水」へのこだわりが強かった。こだわりは自閉症によくみられる行動の一つで、水に興味をもつ人もいれば、光をずっと見ている人など、いろいろな人がいる。
Tさんの母親のすごいところは、「こだわりは人一倍興味が強い証拠。それを生きる力にすればよい」と考えたことだ。水を存分に使える風呂やトイレの掃除を教えたら、だれよりもピカピカにするようになった。大人になったTさんは、公務員試験にパスし、川崎の老人ホームで清掃の仕事を続けている。
自閉症のこだわりは、「生きにくくするもので、やめるべきもの」と思われていたのに、「個性」だと考えたら、生きていくための武器になったのだ。
このときの出会いで、内多さんは、正義の感覚が一皮むけたという。悪の敵から「守ってやる正義」から、「育てていく正義」へ。その人の幸せというのは、他人がひとりよがりに想像するものではなく、「当事者の声に耳を傾け、寄り添わないかぎり決してわからないもの」だと自覚した。
仕事に対するこだわりも、溶解しだした。もっと多様な価値観を求めてもいいと思えるようになり、当事者とより積極的にかかわっていくことになる。
50歳のときに、彼は社会福祉士の国家資格を取った。ソーシャルワーカーといわれるもので、合格率の非常に低い難しい資格だ。決定打となったのは、『クローズアップ現代』。医療的ケアが必要な子どもたちの退院後の暮らしを追う内容だった。このとき与えられた宿題が、彼のなかにずっとのしかかっていた。