少年のころ彼は、仮面ライダーに「異常なほど」あこがれていた。当時の写真を見ると、どれも仮面ライダーの変身ポーズで決めている。悪のショッカーを倒す仮面ライダーは、幼い彼にとってわかりやすい「正義」だった。
その後、成長とともに「正義」へのあこがれは薄れ、目標もなく、授業をさぼって遊ぶ大学時代を過ごした。そのとき、惰性で生きる大人たちをあざ笑うような尾崎豊の歌声を聞き、「正義」の感覚を呼び覚まされたという。
NHKに入局してからは、放送で社会をよくしたい、番組で人を幸せにしたいと思った。初任地、香川県で福祉タクシーが廃止になるというニュースを取り上げた。その福祉タクシーを利用している車いす生活の男性を取材し、男性が地域で孤立せずに暮らしていくには、福祉タクシーが大切な存在になっていることをリポートした。
放送後しばらくして、福祉タクシーは存続することになった。こうした出来事が、手ごたえとなって、自信へとつながっていく。
◆人生は選択の連続だ
だが、大きな組織のなかでキャリアを積む一方、壁を感じることも増えていった。きれいごとが簡単には通用しないことが徐々にわかってくる。自分がやりたい、やるべきだと思ったことも、なかなか許可されない。そんなもどかしい時間を過ごし、「かつては明確だった正義の輪郭がぼやけていった」と言う。