ところで、漂着した船の船主は「大明儒生五峯」と名乗っていたが、実はこの人物、「五峯船主」「五峯先生」などとも称され、本名を王直(おうちょく)という歴史上名高い倭寇の大頭目だった。
王直はやがて東シナ海と南シナ海を股にかけて活躍する倭寇一の大頭目と化し、明の当局から最大のお尋ね者とされてからは、現在の長崎県五島と平戸にそれぞれ一大拠点を構え、九州の諸大名から上客として扱われるなど、「海の王者」として一世を風靡した。
仮に王直の船の漂着がなくとも、日本にも早晩、鉄砲が伝来していたことは間違いない。その場合、鉄砲伝来の地は九州本土のどこかになっていただろう。
※島崎晋・著『ざんねんな日本史』(小学館新書)より一部抜粋
【プロフィール】しまざき・すすむ/1963年、東京生まれ。歴史作家。立教大学文学部史学科卒。旅行代理店勤務、歴史雑誌の編集を経て現在は作家として活動している。著書に『日本の十大合戦 歴史を変えた名将の「戦略」』(青春新書)、『一気に同時読み!世界史までわかる日本史』(SB新書)、『知られざる江戸時代中期200年の秘密』(じっぴコンパクト新書)など多数。