◆なぜポルトガルと断交したか

 島原の乱の平定された寛永一五年(一六三八)時点、日本の最大の貿易相手国はポルトガルだった。そのためポルトガルとの関係を断った場合、オランダにその穴を埋める実力があるかどうかの不安があった。

 当時の幕府がポルトガルとの貿易に頼っていたのは中国産の生糸や織物、薬、乾物などであったが、その点に関してはオランダにも自信があった。マカオと東ティモールは依然としてポルトガル、フィリピンもスペインの手中にあったが、東シナ海の制海権はオランダの手中にある。そのため中国の産品を絶え間なく供給することには何の問題もなかった。

 これで対日貿易の独占は確実かと思いきや、オランダにはもう一つの障害が残されていた。それは幕閣の中に、日本からも船を出し、対外貿易に乗り出してはとの声があったことである。

 そんなことをされては元も子もない。そこでオランダは脅しをかけることにした。日本の貿易船が外洋に出れば必ずスペインとポルトガルの船から襲撃される。最悪の場合、スペイン・ポルトガル両本国との全面戦争になるが、そこまでの覚悟はあるのかと。

 これは完全にオランダによるはったりで、スペイン・ポルトガルが地球の裏側にまで大艦隊を派遣するなどありえないことだった。一四九四年、教皇アレクサンデル六世の仲介のもと、両国が西経四六度三七分をもって世界分割を約したのは事実だが、そんな一方的な条約が国際的にまかり通るはずはなかった。しかし、地球の大きさを実感できず、海外事情にも疎い幕閣を説得するには十分な効果をあげた。

 かくして江戸幕府はポルトガルとの断交にも踏み切り、対外貿易の相手国を西洋ではオランダだけとしたのだった。

※島崎晋・著『ざんねんな日本史』(小学館新書)より一部抜粋

【プロフィール】しまざき・すすむ/1963年、東京生まれ。歴史作家。立教大学文学部史学科卒。旅行代理店勤務、歴史雑誌の編集を経て現在は作家として活動している。著書に『日本の十大合戦 歴史を変えた名将の「戦略」』(青春新書)、『一気に同時読み!世界史までわかる日本史』(SB新書)、『知られざる江戸時代中期200年の秘密』(じっぴコンパクト新書)など多数。

関連キーワード

関連記事

トピックス

事件に巻き込まれた竹内朋香さん(27)の夫が取材に思いを明かした
【独自】「死んだら終わりなんだよ!」「妻が殺される理由なんてない」“両手ナイフ男”に襲われたガールズバー店長・竹内朋香さんの夫が怒りの告白「容疑者と飲んだこともあるよ」
NEWSポストセブン
4月は甲斐拓也(左)を評価していた阿部慎之助監督だが…
《巨人・阿部監督を悩ませる正捕手問題》15億円で獲得した甲斐拓也の出番減少、投手陣は相次いで他の捕手への絶賛 達川光男氏は「甲斐は繊細なんですよね」と現状分析
週刊ポスト
第一子となる長女が誕生した大谷翔平と真美子さん
《左耳に2つのピアスが》地元メディアが「真美子さん」のディープフェイク映像を公開、大谷は「妻の露出に気を使う」スタンス…関係者は「驚きました」
NEWSポストセブン
防犯カメラが捉えた緊迫の一幕とは──
「服のはだけた女性がビクビクと痙攣して…」防犯カメラが捉えた“両手ナイフ男”の逮捕劇と、〈浜松一飲めるガールズバー〉から失われた日常【浜松市ガールズバー店員刺殺】
NEWSポストセブン
和久井学被告と、当時25歳だった元キャバクラ店経営者の女性・Aさん
【新宿タワマン殺人・初公判】「オフ会でBBQ、2人でお台場デートにも…」和久井学被告の弁護人が主張した25歳被害女性の「振る舞い」
NEWSポストセブン
竹内朋香さん(27)と伊藤凛さん(26)は、ものの数分間のうちに刺殺されたとされている(飲食店紹介サイトより。現在は削除済み)
「ギャー!!と悲鳴が…」「血のついた黒い服の切れ端がたくさん…」常連客の山下市郎容疑者が“ククリナイフ”で深夜のバーを襲撃《浜松市ガールズバー店員刺殺》
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(Instagramより)
《愛するネコは無事発見》遠野なぎこが明かしていた「冷房嫌い」 夏でもヒートテックで「眠っている間に脱水症状」も 【遺体の身元確認中】
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問されている秋篠宮家の次女・佳子さま(2025年6月4日、撮影/JMPA)
「佳子さまは大学院で学位取得」とブラジル大手通信社が“学歴デマ報道”  宮内庁は「全報道への対応は困難。訂正は求めていません」と回答
NEWSポストセブン
米田
「元祖二刀流」の米田哲也氏が大谷翔平の打撃を「乗っているよな」と評す 缶チューハイ万引き逮捕後初告白で「巨人に移籍していれば投手本塁打数は歴代1位だった」と語る
NEWSポストセブン
花田優一が語った福田典子アナへの“熱い愛”
《福田典子アナへの“熱い愛”を直撃》花田優一が語った新恋人との生活と再婚の可能性「お互いのリズムで足並みを揃えながら、寄り添って進んでいこうと思います」
週刊ポスト
生成AIを用いた佳子さまの動画が拡散されている(時事通信フォト)
「佳子さまの水着姿」「佳子さまダンス」…拡散する生成AI“ディープフェイク”に宮内庁は「必要に応じて警察庁を始めとする関係省庁等と対応を行う」
NEWSポストセブン
まだ重要な問題が残されている(中居正広氏/時事通信フォト)
中居正広氏と被害女性Aさんの“事案後のメール”に「フジ幹部B氏」が繰り返し登場する動かぬ証拠 「業務の延長線上」だったのか、残された最後の問題
週刊ポスト