ライフ

潜伏キリシタンを生んだ鎖国の背景に「オランダのハッタリ」

世界文化遺産の構成遺産となった大浦天主堂(時事通信フォト)

 このほど世界文化遺産に登録された「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」。世界的にも珍しい信仰が生まれた背景には、豊臣秀吉の伴天連追放令(1587年)や徳川時代の鎖国体制下で徹底された「キリスト教の禁教化」がある。歴史作家で『ざんねんな日本史』著者の島崎晋氏が、「潜伏キリシタン」を生んだ「鎖国体制」の意外なエピソードを紹介する。

 * * *
 戦国時代の後半は西欧の大国による大航海時代の中盤と時期が重なり、世界進出では先行していたスペインとポルトガルを後発のオランダとイギリス、フランスなどが猛追する状況にあった。日本国内では九州の諸大名に西洋との関係構築に積極的な者が多く、豊後の大友宗麟や肥前の有馬晴信をはじめ、キリスト教に改宗してキリシタン大名と化した者も少なくなかった。

 織田信長が西洋人に敬意を表し、キリスト教の布教を許可したうえ貿易も奨励したのに対し、豊臣秀吉は伴天連追放令を発布するなど、キリシタンの急増に過敏なまでの拒絶反応を示した。徳川の世になるとキリシタンだけではなく、西洋人そのものが排除の対象とされ、三代将軍家光の治世には、いわゆる鎖国体制が完成された。オランダを除く西洋諸国との交流が完全に断たれたのである。

 徳川幕府が鎖国へと大きく舵を切った背景には、キリシタンの信仰の篤さがかつて三河国でも猛威を振るった一向一揆と重なって見えたことにある。現に九州のキリシタン大名から町ごと教会に寄進された地域では、神社仏閣の破壊や日本人が奴隷として海外に売られるという事態が起きていた。このまま放置していたら、一向一揆以上の脅威になるのではないか。こうした不安が幕府の外交方針を鎖国体制の構築へと向かわせたのだ。

 この状況を巧みに利用したのがオランダだった。西洋の大航海時代はスペインとポルトガルが先陣を切り、スペインからの独立戦争継続中のオランダとイギリスがそれに続くかたちだった。

 イギリスが北米大陸を重視したのに対し、オランダは最初からアジアに的を絞った。ときにインド洋から南シナ海、東シナ海一帯はポルトガルの独壇場と化していたが、総人口の絶対的な少なさからすぐに息切れが始まり、それに乗じたオランダは、スリランカやマラッカ、台湾などの重要拠点を次々に奪取していった。

 かくして東南アジアの島嶼地域は、フィリピンと東ティモールを除いてはオランダの勢力圏に取り込まれた。オランダの次なる狙いは鉱物資源豊かな日本で、オランダは何としても対日貿易を独占したかった。目的を達成するためには手段を選ばず、幕閣(幕府の最高首脳部)の耳に聞き捨てならない情報を吹き込んだ。キリスト教の国にはカトリックとプロテスタントの二種類があり、前者は布教と貿易が必ずセットだから、交流をやめたほうがいい。オランダのようなプロテスタントの国は布教と貿易をはっきり分けているから、経済面の付き合いだけで大丈夫、心配は無用。今後はオランダだけを相手にするのがよい──と。

関連キーワード

関連記事

トピックス

10月に公然わいせつ罪で逮捕された草間リチャード敬太被告
《グループ脱退を発表》「Aぇ! group」草間リチャード敬太、逮捕直前に見せていた「マスク姿での奇行」 公然わいせつで略式起訴【マスク姿で周囲を徘徊】
NEWSポストセブン
65歳ストーカー女性からの被害状況を明かした中村敬斗(時事通信フォト)
《恐怖の粘着メッセージ》中村敬斗選手(25)へのつきまといで65歳の女が逮捕 容疑者がインスタ投稿していた「愛の言葉」 SNS時代の深刻なストーカー被害
NEWSポストセブン
俳優の水上恒司が年上女性と真剣交際していることがわかった
「はい!お付き合いしています」水上恒司(26)が“秒速回答、背景にあった恋愛哲学「ごまかすのは相手に失礼」
NEWSポストセブン
三田寛子と能條愛未は同じアイドル出身(右は時事通信)
《梨園に誕生する元アイドルの嫁姑》三田寛子と能條愛未の関係はうまくいくか? 乃木坂46時代の経験も強み、義母に素直に甘えられるかがカギに
NEWSポストセブン
各地でクマの被害が相次いでいる(クマの画像はサンプルです/2023年秋田県でクマに襲われ負傷した男性)
ヒグマが自動車事故と同等の力で夫の皮膚や体内組織を損傷…60代夫婦が「熊の通り道」で直面した“衝撃の恐怖体験”《2000年代に発生したクマ被害》
NEWSポストセブン
対談を行った歌人の俵万智さんと動物言語学者の鈴木俊貴さん
歌人・俵万智さんと「鳥の言葉がわかる」鈴木俊貴さんが送る令和の子どもたちへメッセージ「体験を言葉で振り返る時間こそが人間のいとなみ」【特別対談】
NEWSポストセブン
大谷翔平選手、妻・真美子さんの“デコピンコーデ”が話題に(Xより)
《大谷選手の隣で“控えめ”スマイル》真美子さん、MVP受賞の場で披露の“デコピン色ワンピ”は入手困難品…ブランドが回答「ブティックにも一般のお客様から問い合わせを頂いています」
NEWSポストセブン
佳子さまの“ショッキングピンク”のドレスが話題に(時事通信フォト)
《5万円超の“蛍光ピンク服”》佳子さまがお召しになった“推しブランド”…過去にもロイヤルブルーの “イロチ”ドレス、ブラジル訪問では「カメリアワンピース」が話題に
NEWSポストセブン
「横浜アンパンマンこどもミュージアム」でパパ同士のケンカが拡散された(目撃者提供)
《フル動画入手》アンパンマンショー“パパ同士のケンカ”のきっかけは戦慄の頭突き…目撃者が語る 施設側は「今後もスタッフ一丸となって対応」
NEWSポストセブン
大谷翔平を支え続けた真美子さん
《大谷翔平よりもスゴイ?》真美子さんの完璧“MVP妻”伝説「奥様会へのお土産は1万5000円のケーキ」「パレードでスポンサー企業のペットボトル」…“夫婦でCM共演”への期待も
週刊ポスト
俳優の水上恒司が年上女性と真剣交際していることがわかった
【本人が語った「大事な存在」】水上恒司(26)、初ロマンスは“マギー似”の年上女性 直撃に「別に隠すようなことではないと思うので」と堂々宣言
NEWSポストセブン
劉勁松・中国外務省アジア局長(時事通信フォト)
「普段はそういったことはしない人」中国外交官の“両手ポケットイン”動画が拡散、日本側に「頭下げ」疑惑…中国側の“パフォーマンス”との見方も
NEWSポストセブン