現在、日本には600万戸以上の分譲マンションが存在する。そして、日々老朽化している。一部で建て直しを行った物件もある。しかし、その数は未だに二百数十棟というレベル。今後もさほど増えることはない。というか、理論的に増えるはずがない、のだ。
分譲マンションを建替える場合、区分所有法では全区分所有者の5分の4が同意しなければならない、という規定になっている。ただ、反対者がいると何年も揉めるので、事実上は全員の同意が必要だ。
そして、建替えには費用がかかる。現在、建築費は1住戸あたり2400万円前後。これを全員が負担できなければならない。そんなこと、事実上不可能だ。だから、約600万戸の分譲マンションのほとんどは建て替えが不可能。
では、なぜ二百数十棟の分譲マンションはなぜ建て替えできたのか。それは幸運にも容積率に余裕があって、建替えることで床面積を増やせたからだ。
60戸のマンションを100戸に建替え、あまった40戸を販売して60戸の建築費を賄えた、というようなケースだ。この場合、元の60戸の区分所有者の負担がゼロになる場合がほとんど。でないと全員が合意に至れない。
ただ、そういう物件は全体の中でほんの一部。約600万棟のほとんどでは容積率は余っていないと推定される。
このような現在の分譲マンションの状況を考えれば、今後日本の住宅、特に既存の分譲マンションは老朽化しながらストック化していく。昭和以前の感覚の様に、「30年経ったら建て替え」という状況には戻れない。
欧米では築100年や200年の住宅に普通に人が住んでいる。住宅が完全にストック化しているのだ。日本も分譲マンションを大量に供給し続けた結果、図らずもストック化してしまった。ただ、日本人はまだこの大きな住宅環境の変化に気付いていない。だから、今でも多くの人が新築住宅に住みたがっている。
日本の新設住宅着工数は2017年で約94万戸、アメリカは約120万戸で1.27倍。ところが人口は2.6倍。ということは、日本はアメリカと比べると一人当たりで約2倍以上の新築住宅を建設しているのだ。年間20万戸弱のイギリスと比べると約3倍になる。日本人がいかに「新築好き」かが分かる。
しかし、これも変わるはずだ。前述の様に、分譲マンションはいったん造ってしまえば否応なくストック化する。今でも日本全体では約13%の空き家があるのだ。
人口が減り、世帯数が減るにもかかわらず、住宅を作り続けると必然的に空家は増える。そのことに気付いた時、不動産市場には大きな変化が現れるだろう。
日本人は今後、この半ば強制的に生まれた分譲マンションというストック住宅と上手に付き合っていかなければならない。ただ悲観することはない。この問題ではまだ、欧米のノウハウに学ぶことができるのだから。