修業不足で師匠の横谷宗ミンから勘当された宗三郎が、旅先で紀州公の注文により刀の鍔に滝を彫る。驕った心で酒を飲みながら彫った品は、出来が良さそうでも受け取ってもらえず、心を入れ替え滝に打たれて一心不乱に修業に励み、飲まず食わずで彫り上げた滝は、一見拙い仕上がりだが紀州公を満足させ、お抱えの身となり勘当も解ける。志ん生・志ん朝の『宗ミンの滝』では宗三郎は師匠の名跡を継いで二代目宗ミンとなるが、談幸は講談そのままに「宗三郎は横谷ミン貞と名を改め、永く紀州にその名を遺した」とした。
なぜ紀州公が拙い仕上がりの品に満足したかというと、「手に取った鍔の滝から水が滲んだから」だった。この奇跡を「謎解き」として語ったのは志ん朝の工夫。談幸もそれを踏襲して鮮やかに結んだ。
二ツ目まで落語協会で寄席の世界を経験し、その後長らく寄席の外で立川流ファンを相手にしてきた談幸ならではの、「親しみやすくてコクがある」大ネタ2席だった。
●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『噺は生きている』など著書多数。
※週刊ポスト2018年7月20・27日号