「渋谷の『ヒカリエ』のオープンに合わせて論文発表会をやらせていただいたところ、大変な数のオーディエンスが集まったんです。なぜ街中の映画館は閉館を余儀なくされているのか、どうすれば再生できるのか。シネマコンプレックス全盛の今、このテーマがいかに人々の興味を呼ぶのかわかりました」(青山さん)
この問題に向き合うために『シーズオブウィッシュ』を設立した青山さんだが、すぐにミニシアター再生の壁を痛感する。
「日本はそもそも映画館の運営費用が高すぎるんです。フィルムの仕入れ価格などの原価率、装置のメンテナンスや家賃など、すべてがあまりにも高い。単独資本で運営しようとしたら、今の時代はとてもできない。だからこそ、その地域の行政と組む必要がありました。公共施設にすることによって、固定費を市に持ってもらう。その代わりにランニングコストは会社で持つ。この分担が必須でした」(青山さん)
行政と組むのは予算以外にも理由があった。そこには青山さんが幼少期に見た原風景がかかわっている。
「かつて私が入り浸った映画館は、支配人のおじいちゃんとおばあちゃん夫婦がいて、お客さんと一緒に話したり遊んだり、売店のスタッフがアメをくれたり、人と人を結ぶ地域コミュニティーの場所だったんです。ただ映画を客に観せるだけではない、地域住民たちの触れ合いがありました。そこにこそ、ミニシアターの価値があると思うんです。
そもそも人気作品だけやっていても、シネコンには絶対に勝てません。街中の映画館は、作品ではなく『人』を前面に出す場にしようと決めたんです。市の施設となれば、誰もが気軽に来ることができる。公民館と違い、映画館なら作品によっては高齢者だけでなく幅広い年齢層が来ますから、世代を超えた町のコミュニティーとしての役割を担えるのです」(青山さん)
オンラインのチケット予約も含め、シネコンは今やオートメーション化が進み、従業員と接することなく映画を観ることができる。だからこそ、『アミューあつぎ映画.comシネマ』では、公開作も広くリクエストして決定し、高齢者が観やすい上映時間を設定している。
館内は明るく清潔で、廊下に手すりは当たり前。ロビーには観客用のノートを置き、感想を綴り合う。上映前には必ずスタッフが作品について90秒スピーチをする。
昨年大ヒットしたアニメ映画『君の名は。』を上映した時のこと。都心部のシネコンの場合、同作の客はほとんどが若者だったが、『アミューあつぎ映画.comシネマ』は高齢者を中心に若者まで幅広い客層が集い、上映終了後、「ああでもないこうでもない」と、観客同士がロビーで感想話に花を咲かせていたという。