「成果を出した社員は当然いい対価を得るべき」と前田氏

――いま、自動車業界は100年に1度の大変革期。クルマの通信化、自動化、共有化、電動化の4つの波が同時進行で押し寄せ始めています。このトレンドは、前田さんはどう受け止め、どう考えていますか。

前田:まずはっきりしていることは、マツダのクルマは「単なる移動手段」に成り下がるつもりはないということですね。他社が移動手段の色彩を強めるのであれば、我々は唯一、移動手段ではなく、クルマの道具としての価値を持ち続けたい。もし仮にそのニーズが世の中から消えたとしたら、当社のトップ以下、みんな潔くブランドを畳むくらいの覚悟でいます。

 とはいえ、世の中の流れはデザインだけでは動かせないことも事実ですが、逆に言うとカーデザイン対する志、向き合う姿勢が最近、業界全体で低迷している気がするので、ここだけはぶらさないようにしたいなと思います。その志を持ち続ければ、ひょっとしたらマツダだけ美しいクルマを作っているという状況になれるかもしれません。

 人間、誰しも楽をして移動したい欲求もありますが、一方でクルマの道具としての魅力に浸りたい時だってありますよね。そういう人たちが世界で仮に2、3%でも残り続ければマツダの存在価値はあるので、それで十分なのです。

──将来、EV(電気自動車)や自動運転車が溢れ返る世の中になっても、いわゆるかっこいいクルマは存続できるでしょうか。

前田:世の中の風潮として、EVと自動運転車がごっちゃになっているきらいがあると思いますが、両者はまったく別次元の話です。

 自動運転車にもデザインらしきものはあるかもしれませんが、文字通り勝手に移動する手段なので、いわば公共交通機関みたいなもの。となれば、目立たずに自然な形のクルマであるべきでしょう。

 でも、仮に自動車メーカーがみんなそういう方向に行くのであれば、こんなにたくさんあるクルマのブランドは要らなくなる。そう考えると、クルマ好き以外の方々には、もしかしたらマツダは要らないかもしれないですね。

 クルマを運転する行為って、生物の中で人間にしかできない能力ですが、その機能を自動運転車が奪うわけでしょ。人間の能力が1つ減るんですよね。そんなことを我々がやっていいのかなという思いは持っています。

 もちろん、交通事故を考えるとぶつからないクルマにしていく技術はさらに高度なものが求められますし、アクセルとブレーキを踏み間違えて突っ込むような事故も、何とか食い止めたい。ですから、自動運転車はセーフティという要素では必要だという認識はしています。

──自動運転車までいかなくても、たとえばAT車でなくMT車であれば、クラッチ操作のひと手間が増えることで、逆に事故を起こす暴走車が減る可能性もあります。

前田:その通りです。AT車がなかった時代には、アクセルとブレーキを踏み間違えての暴走なんてなかったですし、AT車がなくてもクルマとはそういうものだと、誰も不満なんて言ってなかったですからね。ですから、自動運転技術に関しても、マツダはマツダらしい形を考えようとしています。

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