懐中時計は今も「大和」の沈没時刻2時23分を指す


 ついに敵機が雲から出て右舷160度(艦尾)から急降下してきたので、対空射撃が開始される。距離は2500mくらいで、右舷からは急降下爆撃が来た。こちらが撃った機銃弾が命中したかどうか分からず、敵機が爆弾を落とすたび、続く二番機か三番機を狙った。撃墜された敵機が、右舷後部の海面に突っ込んでいくのを一度だけ見た。(敵は大和の左舷に攻撃を集中させたが)左舷から集中的に来た雷撃機は、こちらからは見えなかった。

 沈没したのは午後2時23分だが、その30分以上前からすでに対空兵器は全部使用不能であった。魚雷や爆弾の命中で、もう電路がいかれて傾斜している。「総員退去」命令の前に、最上甲板の半分が沈んで浸水していた。機銃が撃てなくなったので配置を離れ、左舷側に傾いて海面上にむき出しになった“赤腹”まで歩いて行って靴を脱いだ。この期に及んで、初めて「大和」は助からないと思ったものである。

 後部から海に飛び込んで、500~600mほど離れたところで、大爆発が起こる。3番砲塔の弾庫が誘爆したように見えたが、火柱が収まった時に「大和」の姿はなかった。防舷物(当時は竹製)が流れてきたので、5~6人でつかまった。

 服は着たままで、「大和」から流れてきた重油で真っ黒。でも最後まで死ぬとは思わず、「米軍に負けてなるものか、必ず生きて帰るんだ」と自分に強く言い聞かせる。どこを見ても水平線なので、もう味方のフネは全滅だと思っていた。

 3時間くらい経った日没前、「雪風」が近くに来てくれた。ジャコップ(縄梯子)を垂直によじ登って救助されると、露天甲板で衛生兵が目の消毒だけやってくれた。

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