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獺祭を作る旭酒造会長、豪雨被害で改めて地元意識強まった

奇跡的に出荷を再開した『獺祭』

 今や世界中で「サケ」として親しまれている日本酒。中でも、旭酒造が造る「獺祭(だっさい)」は50か国以上に流通し、世界各国で飲まれる日本酒の約1割を占めるといわれる。

 しかし、この獺祭が今年危機に瀕した。7月の西日本豪雨で、山口県の人気酒造メーカー・旭酒造は50万リットル、15億円近い損失を被った。

 そんな獺祭を救った一つが、漫画の力だった。山口県岩国市出身で旭酒造と交流のあった漫画家の弘兼憲史さんが、「さまざまな困難を乗り越えてきた“島耕作”の名前を使ってください」と申し出たのだ。そこで通常の獺祭として販売しない分を『獺祭 島耕作』として販売することが急きょ決まった。

 こうした営業努力とさまざまな支えにより、一時は製造不能、復旧の見通しも立たないといわれたが、旭酒造が世界に誇る「獺祭」は9月13日、奇跡的に出荷を再開した。

 失うものもあったが、得るものも大きかった。

 8月10日、復旧途中の旭酒造に黒山の人だかりができた。猛暑のこの日は、『獺祭 島耕作』の発売日だった。

「仮店舗は朝9時開店でしたが、1時間前から長い行列ができました。朝早くから並んでくれたのは、ほとんどが地元のかたでした。全国各地からも『獺祭復活を望みます』『獺祭ガンバレ』という声が届き、造り手としてとても嬉しかったです」

 そう語るのは、桜井博志会長(68才)。約58万本を用意したが(1本720ml、1296円)品切れが続出した。東日本大震災で被災した仙台市の仙台三越は「困ったときはお互い様」とばかりに2000本も注文してくれた。

 多くの人に救われた旭酒造も助けてもらうばかりではなかった。水害発生3日後には、早くもスタッフを地域の復旧作業に送り出した。

「社員スタッフが百数人いるので、手の空いた者を、校舎が水につかって運動場が完全に水没した地元の小学校や、被害に遭った民家の復旧のお手伝いに向かわせました。会社の前の県道も自治体に頼むより先に、自分たちで泥をのけてきれいに復旧させました」

 そう語る博志会長を筆頭に、旭酒造の面々は深刻な危機に陥っても皆、前向きだ。過去を振り返れば、この会社はいつもピンチをチャンスに変えてきた。

 博志会長が社長に就任した1980年代半ば、日本酒の販売量は最盛期の3分の1に落ち込み、「カネなし、技術なし、市場なし」の三重苦に苦しんで倒産間近と囁かれた。だが、製造法や販売方法を改革して徹底的に獺祭ブランドにこだわると、業績は右肩上がりになり、33年間で売り上げは110倍になった。

 博志会長が笑顔で言う。

「私たちがショボンと落ち込んでいたら、社員も落ち込んでしまいます。だから社員には『中国地区最大の被害だったようだから、中国地区最速の復旧を目指そう』と声をかけました。こういう危機的状況できちんと陣頭指揮するのが経営者の仕事です。自然災害に再び襲われた時に備えて、非常電源の確保なども早急に進めようと思います」

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