例えば道徳教材〈お母さんのせいきゅう書〉を読ませることで、〈母親の無償の愛に感動して涙する子供の物語〉を道徳としてなぜ教える必要があるのかと氏は疑問を呈し、他にも〈「二分の一成人式」に「巨大組体操」〉等々、〈感動の押し売り〉は、教育現場を息苦しくしているだけだと綴る。
「ことは学校に限りません。例えば企業で同僚が自殺しても『みんなが頑張ってるのにあいつは弱い』とか、『子供を自然に育てるのがイイ母親で、スマホに頼るのは悪い母親』とか、そのみんなが滅私奉公や理想の子育てを強いられる現状を、なぜか変えようとはしない。特攻隊もそうです。なぜあんな無謀な作戦が美談にすらされてしまったのか、そこには多くの童話や児童文学による刷り込みの歴史が深く関係していました」
昨今では学校教材のほか、絵本等の〈読み聞かせ〉も大はやりだが、子供たちは例えば国語で新美南吉『ごんぎつね』を読んで狐の気持ちを想像し、その死を悼む心や〈自己犠牲〉の精神を学ぶことを暗に期待されている。
「それを一番よく知っているのも、子供たちですけど」
国語の学習指導要領には〈国を愛し、国家、社会の発展を願う態度を育てる〉などなど、明らかに道徳の範疇と思しき項目が並び、課外読書でも推奨されるのは〈物語〉ばかりだとか。
「学校から持ち帰る推薦図書リストも物語で占められています。また読み聞かせは〈心の脳〉に届くとする研究もあって、子供の思考より感情に何かを訴えようとしていると感じます」