例えば白秋が母を恋うる気持ちを文学に昇華させるのはいい。だがそれが国家レベルの美学や〈母性幻想〉と結びつけば社会的に抑圧される存在もまた生まれ、少数派をいよいよ孤立させることになりかねないのだ。
「本書は表題こそお母さん講座ですけど、たぶんどんな方であっても学校や職場や家庭で抑圧された経験は何かしらお持ちだと思う。もしご自分の中に内面化された抑圧があるなら、それと戦ってみませんかって。
私自身、ガンダム好きな自分と若者の戦意を煽った文学者は地続きにあって、人を批判する前に自分の中にあるものを相対化しようと思って道徳の歴史を調べ始めた。今でも美しいものに憧れ、感動はするけれど、それが必ずしも正義じゃないことだけは心に留めておきたい。人はどうあれ、自分はそうあり続けることが、いずれは個人が個人として尊重される社会を実現すると、信じたいんです」
強大な敵は外だけでなく、自分の中にもいる。そんな賢明さこそ、本来はみんなが学ぶべき道徳だと思うのだが。
【プロフィール】ほりこし・ひでみ/1973年横浜生まれ。早稲田大学第一文学部卒。IT系出版社を経てライターに。ネット草創期の元人気ブロガー。「HPを始めたのが学生時代の1995年なので、まだユニックスの時代です」。著書は他に『萌える日本文学』『女の子は本当にピンクが好きなのか』、翻訳書も多数。10歳を迎えた子供が両親に感謝する感動の式典「二分の一成人式」の台本に、〈地獄かよ〉の一言で親子の心を一つにしたツッコミ上手な小5の長女と小1の次女の母。153cm、O型。
構成■橋本紀子 撮影■三島正
※週刊ポスト2018年9月21・28日号