例えば、脚本家の橋田壽賀子さん(93才)が、昨年刊行した著書『安楽死で死なせて下さい』(文春新書)で、「認知症になったら人に迷惑をかける前にスイスで安楽死したい」と主張した。この橋田さんの主張に対して、作家の筒井康隆さん(84才)が「日本でも早く安楽死法を通してほしい」と賛同。一方、スピリチュアルカウンセラーの江原啓之さん(53才)は「安楽死をしたいなんて言ってはいけません」と反論するなど、賛否両論が巻き起こった。
日本における安楽死の議論には「誤解」があると長尾医師が話す。
「日本では『安楽死』と『尊厳死』が混同されています。安楽死とは、『医師が薬剤を用いて意図的・積極的に死を招く医療的行為』であり、刑法の殺人罪などが適用される犯罪です。一方で尊厳死とは、『死期が近い不治かつ末期の患者が延命治療を拒否する一方、緩和ケアを充分に使うことで、自然な死を目指すこと』を指します」
現在の日本では、「尊厳死の議論を避けている」と長尾医師は指摘するが、超党派の議員連盟が目指す「終末期の医療における患者の意思の尊重に関する法律案」は、いまだ国会に提出されていない段階でもある。
他方で、尊厳死は医療現場において事実上容認されつつある。
「厚労省や各学会のガイドラインなどに基づき、“本人と家族、複数の医師が合意すれば、延命治療を中止する尊厳死は許される”との考えが医療現場では広がりつつあります。実際に『胃ろうの中止』や、耐えがたい苦痛を取り除くために麻酔薬で眠らせたまま最期を迎える『終末期鎮静』などにより、患者さんは穏やかな死を迎えています。
ただし、これらの医療行為は法律的な裏付けが充分ではないため、医師が殺人罪などで訴えられる可能性のある“グレーゾーン”でもあります」(長尾医師)
そんな最中の9月16日には、自民党が終末期医療の在り方を規定する新法作成に動き出したと毎日新聞が報じた。安楽死について、今後国内の議論が大きく進むはずだ。
※女性セブン2018年10月11日号