芸能

安藤サクラの朝ドラ『まんぷく』 ドリカムの主題歌に違和感

息はピッタリ(撮影/浅野剛)

 新たな物語の幕が開いた。キャスティングは粒揃い、しかし……。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が指摘する。

 * * *
 いよいよ始まりました。安藤サクラがヒロイン今井福子を演じる新たなNHK朝ドラ『まんぷく』。今回は実在の人物がモデル。インスタントラーメンを生んだ安藤百福と妻・仁子の半生を下敷きにした物語です。

 前作の『半分、青い』は、主人公・鈴愛を演じた永野芽郁さんの18歳(撮影時)とは思えない演技力が印象的でしたが、オリジナル脚本のせいもあったのか、まるで登場人物の一人ように脚本家が前面に出張ってきて「神回予告」をしたりSNSを炎上させたり。ずいぶんと目障りに感じていた人も多かったのではないでしょうか。

 その意味で『まんぷく』がスタートした10月1日の朝は、すっきりとしたリセット感に包まれました。爽やかな朝の時間がとりあえず戻ってきてほっと一息。

 さて、全体を見回してみて、まずキャスティングの見事さに一票を入れたいと思います。主人公・福子を演じる安藤サクラの演技の巧さは折り紙付きですが、福子の夫になる立花萬平に長谷川博己と、こちらも実に的確なキャスティング。

 福子ののびのびとした少女らしさ、天然ぶり、ストレートな明るさに対峙するように、萬平の理系のきっちり感、緻密さとフェミニンな柔らかさ、抑えの効いた静かな人物造形がいい味を出しています。

 そして今井家の配役──長女・咲に内田有紀、次女・香田克子に松下奈緒、母・鈴に松坂慶子とバランス感がある。男性陣もいい。克子の夫に要潤、咲の婚約者に大谷亮平と、ドラマの世界を壊すような、悪目立ちしたり下手くそな役者がいないから安心して見ていられます。

 ナレーションには芦田愛菜を抜擢。「毎朝8時」という時間帯、いったいどう語ればいいのかをよく考えた上での発声。さすが芦田さん、プロフェッショナルぶりが光っています。

 まだ始まったばかりですが、一部には「安藤サクラの演技が過剰すぎ」「ドタバタが似合わない」という声も聞かれます。おそらく少女から大人へ、妻へという変化を「際立たせる」ための戦略として、安藤さんは意図して滑り出しをドタバタ演技にしているのでは、と私は想像していますが。

 時の経緯の中で福子がいったいどんな女性になっていくのか──変化に注目したいと思います。

 筋立てとしては、どん底から立ち上がり失敗したり試行錯誤、最後は成功を掴んでいく「インスタントラーメン」開発物語が時代の変化と共に描き出されていくはず。ある意味わかりやすい。王道。いや、わかりやすすぎる、と言えるのかもしれません。それだけに、制作陣・演出陣がいかに大阪らしい商売という味付けをし、どんな具材を投入して新鮮な展開として見せていくのか。料理の腕の見せ所でしょう。

 ということで、まずは順調に走り出したように見える『まんぷく』。ただし一つ、違和感を感じた点があります。それが、DREAMS COME TRUE の『あなたとトゥラッタッタ♪』という主題歌。トゥラッタッタと「行進」していく元気の良い曲なのですが、なぜか歌詞がほとんど聞き取れません。意味を伝える必要はない、と判断したのでしょうか?

 しかも、「行進」「マーチ」という力強いメロディラインやリズムと、夫を支える主人公・福子というマッチングも今一つ。例えば『あさがきた』のように、主人公の女性が困難な時代の中で実業を女手で切り拓いていく物語なら力強いマーチがぴったりですが、今回は百福を支える妻が主人公ということで、ミスマッチ感も。

 主題歌を背景に流れるタイトルバックの映像はどうでしょうか? たとえば前作の『半分、青い』のタイトルバックは映像に手書きの絵や線が加わっていくユニークな表現でした。

 目に映る一つの風景もどう捉えるか、ちょっと手を加えることによってまったく違った形や色どりになる、という意味深のコンセプトを、説明的でなく一瞬に映像で表現し「なるほど」と唸らされました。星野源の曲ともよく溶け合っていました。

 通常ならばアートディレクターやクリエイターが担当することが多いタイトルバック。しかし今回はドリカムの主題歌を背後に流しつつ、実は安藤さん自身が即興的に身体を動かして表現した映像そのままなのだとか。

「タイトルバックの撮影では、監督から福ちゃんの母性、懐の大きさみたいなのを表現してほしい、と言われていました。それで、淡路島の海で撮影していた時、目の前の海というか、地球のすべてを福ちゃんが受け止めるような、包み込むようなイメージが湧いてきて、思わずあのポーズをしてしまったというか、たまらなくやりたくなったというか」 (「オリコン」2018.10.3)と、安藤さんは印象的な大の字のポーズについて語っています。

 現時点のタイトルバックは、手足を伸ばしたりして天衣無縫な少女の動きを表現しています。ということは今後、福子の成長や変化によってタイトルバックの映像も変わっていく? まさか半年間、このままということもありえない……? 本編のみならず、そのあたりあわせて注目したいと思います。

関連記事

トピックス

左:激太り後の水原被告、右:2月6日、懲役刑を言い渡された時の水原被告(左:AFLO、右:時事通信)
《3度目の正直「ついに収監」》水原一平被告と最愛の妻はすでに別居状態か〈私の夢は彼と小さな結婚式を挙げること〉 ペットとの面会に米連邦刑務局は「ノー!ノー!ノー!」
NEWSポストセブン
9月に成年式を控える悠仁さま(2025年4月、茨城県つくば市。撮影/JMPA)
悠仁さまが学園祭にご参加、裏方として“不思議な飲み物”を販売 女性グループからの撮影リクエストにピースサイン、宮内庁関係者は“会いに行ける皇族化”を懸念 
女性セブン
衆院広島5区の支部長に選出された今井健仁氏にトラブル(ホームページより)
【スクープ】自民広島5区新候補、東大卒弁護士が「イカサマM&A事件」で8000万円賠償を命じられていた
週刊ポスト
V9伝説を振り返った長嶋茂雄さんのロングインタビューを再録
【長嶋茂雄さんロングインタビュー特別再録】永久不滅のV9伝説「あの頃は試合をしていても負ける気がしなかった。やっていた本人が言うんだから間違いないよ」
週刊ポスト
“超ミニ丈”のテニスウェア姿を披露した園田選手(本人インスタグラムより)
《けしからん恵体で注目》プロテニス選手・園田彩乃「ほしい物リスト」に並ぶ生々しい高単価商品の数々…初のファンミ価格は強気のお値段
NEWSポストセブン
山尾志桜里氏(=左。時事通信フォト)と望月衣塑子記者
山尾志桜里氏“公認取り消し問題”に望月衣塑子記者が国民民主党・玉木代表を猛批判「自分で出馬を誘っておいて、国民受けが良くないと即切り捨てる」
週刊ポスト
「〈ゆりかご〉出身の全員が、幸せを感じて生きられるのが理想です。」
「自分は捨てられたと思うのは簡単。でも…」赤ちゃんポスト第1号・宮津航一さん(21)が「ゆりかごは《子どもの捨て場所》じゃない」と思う“理由”
NEWSポストセブン
浅草・浅草寺で撮影された台湾人観光客の写真が物議を醸している(Xより)
「私に群がる日本のファンたち…」浅草・台湾人観光客の“#羞恥任務”が物議、ITジャーナリスト解説「炎上も計算の内かもしれません」
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問されている秋篠宮家の次女・佳子さま(時事通信フォト)
《スヤスヤ寝顔動画で話題の佳子さま》「メイクは引き算くらいがちょうどよいのでは…」ブラジル訪問の“まるでファッションショー”な日替わり衣装、専門家がワンポイントアドバイス【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
2013年大阪桐蔭の春夏甲子園出場に主力として貢献した福森大翔(本人提供)
【10万人に6例未満のがんと闘う甲子園のスター】絶望を支える妻の献身「私が治すから大丈夫」オリックス・森友哉、元阪神・西岡や岩田も応援
NEWSポストセブン
ヨグマタ相川圭子 ヒマラヤ大聖者の人生相談
ヨグマタ相川圭子 ヒマラヤ大聖者の人生相談【第24回】現在70歳。自分は、人に何かを与えられる存在だったのか…これから私にできることはありますか?
週刊ポスト
「週刊ポスト」本日発売! 食卓を汚染する「危ない輸入冷凍食品」の闇ほか
「週刊ポスト」本日発売! 食卓を汚染する「危ない輸入冷凍食品」の闇ほか
NEWSポストセブン