皇室ジャーナリストの山下晋司氏
最終日には、皇后陛下は38度台の発熱がありながらも津波で壊滅的な被害を受けた漁港で、犠牲になった消防団員の遺族を慰労されたのです。常に天皇陛下のお傍を離れないという強いご意志が伝わってきました。
陛下が即位後の平成3年7月、長崎県雲仙・普賢岳噴火災害被災地にお見舞いのため訪れたお姿を今でも忘れることはありません。両陛下は床に膝をついて被災者と向き合われ、励まされました。
その後も全国で起きた自然災害の現場へ赴くたび、天皇陛下はもちろん、皇后陛下が被災者に対して優しくお声がけされたお言葉を覚えています。
“生きていてくれてありがとう”
初めて聞いた時、どうして、相手に対してありがとうとおっしゃるのだろうかと疑問に感じました。
さらに両陛下は葉山・須崎・那須御用邸などでご静養中、地元の方々と触れ合われる機会が多くあります。その際、皇后陛下は、母親からその子の成長の様子を聞くと、笑顔を浮かべて“育ててくれて、ありがとう”とおっしゃるのです。
子供の大切な命をお母さんたちが懸命に育てていることに対して、皇后陛下は心から感謝されているのではないか。過酷な災害を生き抜いた被災者にも、同様の感謝を伝えておられる。そうした皇后陛下のお言葉とお姿に、国母としての慈愛を感じないではいられません。
【PROFILE】山下晋司●1956年大阪府生まれ。関西大学卒業。23年間の宮内庁勤務の後、皇室ジャーナリストとして『皇室手帖』の編集長などを務める。BSジャパン『皇室の窓スペシャル』の監修を担当。著書に『いま知っておきたい天皇と皇室』(河出書房新社)、監修書に『美智子さま100の言葉』『美智子さま 永遠に語り継ぎたい慈愛の言葉』(宝島社)など。
●取材・構成/祓川学
※SAPIO2018年9・10月号