単行本『いまどきの納骨堂 変わりゆく供養とお墓のカタチ』の著者・井上理津子さん(撮影/藤岡雅樹)


井上:小説のシーンはまさに、当事者性を帯びたものだったんですね。

江上:そう。あと、ぼくの場合はお墓が身近で、お墓の話なら結構素材を持っているということもありました。生まれが丹波の山奥で…。

井上:柏原(かいばら)でいらっしゃいますよね。

江上:えっ、何で知ってるんですか!? 柏原という地名まで!

井上:私は関西出身なんです。この小説の冒頭に、主人公夫婦が新幹線からJR福知山線に乗り換え、桜の海の中を走って夫の故郷に向かうシーンがあって、これは柏原のことだろうなと思いながら読んだもので。

江上:そうですか。柏原はぼくが通った高校がある場所で、実家はそこからさらに自転車で50分か1時間かかる奥なんですけどね。そこは小さな村が5つ集まった集落で、村人たちは400年、500年続く山の上の大きな真言宗のお寺の檀家。ぼくが小さいときは土葬でした。

井上:ご記憶がおありなんですか?

江上:もちろん。人が亡くなると、父親たちが白装束を着て、夜にお墓を掘りに行く。古い骨を出すなど、新しい人を入れるスペースを作らなきゃいけないから。それが済んだら、親族みんなで死者に化粧を施し、落語の『らくだ』に出てくるみたいな大きな樽に入れる。座棺です。覚えてますよ。ボキボキボキと骨が鳴る音を。死後硬直しちゃってるので折れるんです。

井上:ご遺体がぺしゃんこになる感じですよね。

江上:そうやってから座棺を担ぎ、お坊さんを先頭に「葬斂(そうれん)」っていう長い行列を組んで、墓地のある山の上の寺を目指す。チンドンシャンと鳴り物も入って、ほんと映画で見るような光景ですよ。夕方、屋根の上にぽんと青い火の玉が浮かぶ。それを見て、みんな別に驚きもせず「ああ、あそこんちの寝込んでたおばあちゃん、死んだね」みたいな話になる。そういう不思議現象も普通にありました。

井上:映画ですね、完全に映画の世界だ。

江上:大学のときも柳田國男とかの民俗学をやって、長野県の村々を訪ね、詣り墓とか埋め墓などの風習を知りました。

井上:ああ、埋葬地と、墓参のための地を分ける両墓制ですね。

江上:死や死者や墓地が日常生活の中に普通にあった原体験と60代の心境が重なり、それで編集者と「お墓コメディーみたいなのを書こうか」という話になったんです。「みんな結構切実な問題だぜ」って。

――俊哉の田舎の母が亡くなった。妻の小百合に〈お墓を頼みますね〉と遺言して。俊哉は小百合に、俺たちも実家の墓に入るんだからと言ってみるが、小百合はにべもない。〈嫌よ〉〈絶対に嫌なの〉〈なんの縁もない、こんな田舎……〉。あげくに夫を指さし〈「死んでからもこの人に私の自由を縛られたくない」ので別の場所を探すと、意欲満々の戦闘モード。墓を継ぐ継がないの問題は、霊園詐欺や、息子がすすめる納骨堂見学、麗子の叛乱などで二転三転して…。

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