江上:うん、少し。実は取材もあって、(東京の)青山から谷中とか、いろんな有名人のお墓を見て回ったことがあるんです。お墓はそれぞれのその人の性格みたいなのが出るよね。日本の鉄道の父・井上勝の小説を書くために彼の墓がある品川の東海寺を訪ねたとき、たまたま島倉千代子の墓があって、凄く大きかった。亡くなったあとも歌っているみたいな感じのお墓でした。
井上:そういう意味で言うと、雑司ケ谷霊園には夏目漱石のお墓があって、霊園一の大きさで有名です。漱石自身はお墓はちっちゃくとか、いらないとかって言ってたそうですが、そうはいかなかったみたいですね。
江上:護国寺の大隈重信の墓も大きいですよ。昔の墓というのは、故人の生前の権勢の大きさと比例してるところがありますね。ところで、お墓の敷地って、借りてるものなんですね。ぼく、今回調べるまであまり知らなかった。
井上:ああ、ほとんどの人は知らないですね。
江上:というのも田舎では、お墓の境界線争いがあったりするんですよ。だから私有地だとばかり思ってた。
井上:永代使用料で借りてるだけですよね。だから、改葬するときは更地にしてお返ししなければならない。離檀料を請求される場合もありますし、墓石の撤去や整地にかかる費用も業者によってバラバラです。私はこの本で、僧侶が主宰しているNPO法人に同行して墓じまいの過程を見せてもらいました。
──改葬の前の墓じまいを依頼したのは長野県に住むあるご夫婦。川崎の霊園にある妻の実家の墓じまいをすると言う。聞けば、ここに入っているのは〈「会ったことがない人ばかり」〉。墓石に撒き塩をし、魂抜き(抜魂供養)をし、遺骨を取り出し、僧侶自身が作業着に着替えて墓石を解体、クレーンで吊り上げトラックで運ぶ。遺骨は後日夫婦が指定した善光寺に運ばれ、共同墓地に合葬された。これらすべての作業で39万2040円(消費税込み)。最初は高めかなと思った井上さんは最後、〈妥当な額、いやむしろかなり安価なのではないか〉と驚きながら書く。
【Profile】
◆井上理津子(いのうえ・りつこ)/1955年奈良県生まれ。タウン誌記者を経てノンフィクションライターに。『葬送の仕事師たち』『親を送る』『さいごの色街 飛田』『夢の猫本屋ができるまで』など著書多数。
◆江上剛(えがみ・ごう)/1954年兵庫県生まれ。早稲田大学を卒業後、第一勧業(現みずほ)銀行に入行。1997年に発覚した第一勧銀の総会屋利益供与事件では、広報部次長として混乱収拾などに尽力。高杉良さんの小説『呪縛 金融腐蝕列島II』のモデルになる。在職中の2002年に『非情銀行』でデビュー。『ザ・ブラックカンパニー』『ラストチャンス 再生請負人』など著書多数。テレビやラジオでコメンテーターとしても活躍中。
【緊急祝報】
東京・三省堂書店有楽町店にて、井上理津子さんと江上剛さんのトーク&サイン会イベントが開催決定! 『いまどきの納骨堂 変わりゆく供養とお墓のカタチ』(小学館)と『一緒にお墓に入ろう』の発売を記念し11月7日(水曜日)19時より、東京交通会館3Fにある喫茶ジュンにて開催。お申し込み、お問い合わせは、三省堂書店有楽町店まで。たくさんの方のお越しをお待ちしています。
※女性セブン2018年11月8日号