江上:お墓をテーマに面白おかしく、読めばお墓についてのノウハウも得られる。そんな小説にしようと思ったんです。でも調べ始めると、いや~、お墓って結構深いですねぇ。
井上:ええ、深いですねぇ。
◆「家」と結びついたお墓は非合理的で煩わしい
江上:井上さんがお墓に興味を持たれたのは、どんなことがきっかけだったんですか?
井上:私の方は、残念ながら江上さんのようなリアル体験からではなく、ライターとしての部分がやはり大きいです。2015年に『葬送の仕事師たち』という本を出したんですね。ご遺体になってから荼毘に付されるまでの間に、葬儀屋さんをはじめ、ご遺体を修復する人とか火葬場で火葬の担当をしてくださる人とか、いろんなかたがかかわる。その人たちのお仕事ぶりや思いをルポしました。皆さんさすがプロというか、もう頭が下がる思いでしたが、とりわけびっくりしたのが、火葬場のかたの働きぶりだったんです。あまり明るい話題ではないので、ちょっと口ごもってしまいますが…。
江上:どうぞ、全然気にしないで。
井上:いいんですかね。近代的な装置がある火葬場の中で、ご遺体が一定の時間内にきれいに焼けて骨だけ残るように棒を突っ込んだり、本当にもう、ちょっとびっくりするようなお仕事をされているんです。そういう献身的なお仕事ぶりがあって、みんな骨になるんだなという感慨がありました。じゃあ、これほど苦労して焼いてくださった骨というのは次、どこに行くんだろうという物理的な興味を抱いたんです。
江上:火葬場でお骨を拾うけど、関東と関西では骨壺の大きさが違うんだね。関東は骨壺が大きくて全部拾う。一方関西の骨壺は小ぶりで、重要な部分だけ拾う。
井上:そうです。関東の骨壺は七寸、関西は二寸。私も書きましたが、江上さんも書かれていましたね。
江上:書きました。だけど拾われなかった骨はどこに行くんだろう。捨てられるんでしょうね、きっと。
井上:そうですね。捨てられるか、まあ、回収業者のかたによって、また次の葬られ方があったりするケースもあるんですけど。さっきの話に付け加えると、お墓の話を書こうと思ったのにはもう1つあって、私は6年間、雑司ケ谷霊園(東京)のすぐ近くに住んでいたんですね。で、なんかお墓が好きで(笑い)、毎日お墓散歩をしていたんですが、誰にもお参りされず荒れたお墓が増えたりと、お墓に対する人々の考え方が変わってきているなと肌で感じたんです。
江上:ぼくも墓マイラーですよ。
井上:江上さんも!(笑い)