こうした現象の理由はおそらく2つ考えられます。ひとつは「自動車保有率の低下」。もうひとつは「共働き世帯の増加」。言うまでもなく、通勤や買い物などの利便性に優れた駅近が求められることになっているのです。
2018年時点の現在でもすでに、駅距離による中古マンション成約単価はかつてより大きな格差が広がっています。例えば典型的なベッドタウンである千葉県柏市の柏駅から1分離れるに従い、2008年には平米あたり7000円~8000円程度の下落カーブでしたが、これが年々先鋭化し、2018年時点では1分あたり平米1万7000円と、急角度での下落となっています。
これは都心部でも同様です。東京都心7区(中央・千代田・港・新宿・渋谷・品川・目黒)の各駅から1分離れたときの中古マンション成約単価の下落率は、5年前は平米あたり8000円程度でしたが、2018年(5月末時点)では1万8000円に拡大しています。
都心でも都市郊外でも、そして地方でも、あらゆるところでこうした格差のフラクタル構造がみられるのです。2025年段階では、駅から離れたときのマンション価格下落カーブは現在の2倍以上の急角度となっていても全く不思議ではありません。
郊外ベッドタウンのバス便マンションに話を戻しましょう。「ニーズがなくても、価格を下げれば売れるのではないか」と思われるかもしれませんが、そうもいきません。郊外ベッドタウンのバス便立地は地価が安いため、4LDKの新築一戸建てが2000万円内外で売られており、頭金ゼロで100パーセントの住宅ローンを組んでも、昨今の低金利下では、毎月の支払いは6万円代で済みます。
さらに、住宅ローン残高の1パーセントが10年間にわたり戻ってくる(税額控除)、「住宅ローン控除」といった制度を考慮すれば、実質的に月々5万円代で新築一戸建てが買えてしまうのです。こうなるとバス便の築古マンションは、いくら安くてもニーズがありません。
建物が古くなると同時に所有者も高齢化します。筆者が創業したさくら事務所の経験では、築年数が経過したマンションのほとんどが必要十分な修繕積立金を確保できていません。マンションの大規模修繕といえば億単位に上ることも珍しくありませんが、所有者からそれぞれ100万円・200万円などの一時金を徴収しようと思っても、全員が足並みをそろえてまとまったお金を出せるかというと、かなり厳しいものがあります。