国内

芥川賞候補・古市憲寿が描く「平成の終わり」と「死」

初めての小説を上梓した古市憲寿さん(撮影/横田紋子)

【著者に訊け】
古市憲寿さん/『平成くん、さようなら』/文藝春秋/1512円

【本の内容】
〈彼から安楽死を考えていると打ち明けられたのは、私がアマゾンで女性用バイブレーターのカスタマーレビューを読んでいる時だった〉。こんな一文から物語は始まる。1989年1月8日、つまり平成に改元された日に生まれた彼のファーストネームは「平成」。平成の代表としてメディアの寵児として人生を謳歌する彼はなぜ恋人の愛に安楽死をしたいと告げたのか。実在の人物や場所も多数登場。時代の終わりと近未来の社会を映し出す。

 まもなく終わる平成という時代。テレビのコメンテーターとしても活躍する社会学者が、平成の終わりを小説に描いた。

「今、本屋さんに行くといっぱい平成論が並んでますけど、正直、面白いものが少ない。理論にするのは難しくても、逆に物語なら書けるんじゃないかな、と思って書き始めたのがこの本です」

 時代の終わりとともに安楽死を願う主人公の名前が「平成(ひとなり)」。恋人の視点で描かれる「平成(へいせい)くん」の姿は、どことなくテレビを通して見る古市さん自身を思わせる。

「ぼくと重ねて読む人も多いのはわかります。部分的には確かにぼくなんですけど、ぼくだけでもなくて、何人かをモデルにしています。『平成くん』はぼくより合理的で、ずっと賢い」

 社会的に恵まれた階層に位置し、家賃130万円の高層マンションに暮らしている二人だが、贅沢を楽しむというより、AIが最適解を導き出すようにその場に見合ったレストランや食事、衣装を選んでいく。欲望を取り除いたような暮らしは無機質で、二人の性行為はアマゾンで購入した最新の「セックストイ」を介して行われる。

 小説を書いてみないか、というのはずいぶん前から言われていたそうだ。祖母の死をきっかけに、昨年、文芸誌に初めて短篇を発表した。芥川賞候補のこの作品が小説としては2作目だが、そうは思えないほど自然な語り口である。

「そうですね。『小説を書こう』って身構えることもなく、書きたいことを自然に書けた感じです。普段から文章で悩むことはなくて、今回も特にプロットも作らず、一行目から順番に書いていきました。安楽死をテーマにしたい、というのは考えていたので、最後のイメージだけはありましたけど」

『平成くん…』の舞台は現在の東京で、描かれる事件や固有名詞も今のものばかりだが、安楽死が認められている社会だという一点だけが違っている。

「平成の終わりって安楽死と似てますよね。ある日、急にプツッと消えるようなこれまでの終わり方ではなくて、自分で終わりを決めるという意味で。これから、死がどう変わっていくんだろうと考えながら書いたのがこの小説です」

◆取材・構成/佐久間文子

※女性セブン2019年1月31日号

関連記事

トピックス

ドラフト1位の大谷に次いでドラフト2位で入団した森本龍弥さん(時事通信)
「二次会には絶対来なかった」大谷翔平に次ぐドラフト2位だった森本龍弥さんが明かす野球人生と“大谷の素顔”…「グラウンドに誰もいなくなってから1人で黙々と練習」
NEWSポストセブン
渡邊渚さん(撮影/藤本和典)
「私にとっての2025年の漢字は『出』です」 渡邊渚さんが綴る「新しい年にチャレンジしたこと」
NEWSポストセブン
ラオスを訪問された愛子さま(写真/共同通信社)
《「水光肌メイク」に絶賛の声》愛子さま「内側から発光しているようなツヤ感」の美肌の秘密 美容関係者は「清潔感・品格・フレッシュさの三拍子がそろった理想の皇族メイク」と分析
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン
国宝級イケメンとして女性ファンが多い八木(本人のInstagramより)
「国宝級イケメン」FANTASTICS・八木勇征(28)が“韓国系カリスマギャル”と破局していた 原因となった“価値感の違い”
NEWSポストセブン
実力もファンサービスも超一流
【密着グラフ】新大関・安青錦、冬巡業ではファンサービスも超一流「今は自分がやるべきことをしっかり集中してやりたい」史上最速横綱の偉業に向けて勝負の1年
週刊ポスト
今回公開された資料には若い女性と見られる人物がクリントン氏の肩に手を回している写真などが含まれていた
「君は年を取りすぎている」「マッサージの仕事名目で…」当時16歳の性的虐待の被害者女性が訴え “エプスタインファイル”公開で見える人身売買事件のリアル
NEWSポストセブン
タレントでプロレスラーの上原わかな
「この体型ってプロレス的にはプラスなのかな?」ウエスト58センチ、太もも59センチの上原わかながムチムチボディを肯定できるようになった理由【2023年リングデビュー】
NEWSポストセブン
12月30日『レコード大賞』が放送される(インスタグラムより)
《度重なる限界説》レコード大賞、「大みそか→30日」への放送日移動から20年間踏み留まっている本質的な理由 
NEWSポストセブン
「戦後80年 戦争と子どもたち」を鑑賞された秋篠宮ご夫妻と佳子さま、悠仁さま(2025年12月26日、時事通信フォト)
《天皇ご一家との違いも》秋篠宮ご一家のモノトーンコーデ ストライプ柄ネクタイ&シルバー系アクセ、佳子さまは黒バッグで引き締め
NEWSポストセブン
ハリウッド進出を果たした水野美紀(時事通信フォト)
《バッキバキに仕上がった肉体》女優・水野美紀(51)が血生臭く殴り合う「母親ファイター」熱演し悲願のハリウッドデビュー、娘を同伴し現場で見せた“母の顔” 
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
《六代目山口組の抗争相手が沈黙を破る》神戸山口組、絆會、池田組が2026年も「強硬姿勢」 警察も警戒再強化へ
NEWSポストセブン