国内

児童相談所設立反対運動、子供は二度虐待されたも同然か?

勇気を出して、他者を受け入れ共生を(写真/アフロ)

「なぜこの一等地に!」

 2017年11月、東京・南青山の一角にあった約1000坪の国有地を港区が約72憶円で購入した。さらに約32億円をかけて「港区子ども家庭総合支援センター(仮称)」を建設し2021年4月の開設を目指す、一大プロジェクトがあることを発表した。

 施設には児童相談所のほか、子育て相談などができる「子ども家庭支援センター」や、養育が困難な母子家庭が入居する「母子生活支援施設」が併設予定である。

 しかし、それから約1年後の2018年10月、施設建設のために港区が開いた説明会で、反対派の住民が区の担当者に猛然と噛みついたのだ。この様子がテレビなどのニュースで取りざたされた。
 
 こうした児相建設への反発は、南青山だけの話ではない。2016年、大阪市北区にあるタワーマンション内に「北部こども相談センター」(児相)を開設する計画が持ち上がった。現場は梅田からほど近くて交通の便がよく、有名芸能人も居住する高級マンションである。

 大阪市は政令指定都市のなかで虐待相談件数が最も多いにもかかわらず、市内に児相は2か所しかなかった。そこで3か所目として、計画が出されたのだ。
 
 虐待件数が増加の一途をたどる現代において、児相の増設が急務であることは紛れもない。いざ新設されるその時に、同じことを繰り返さないために、今回の騒動から何を学ぶべきなのだろうか。

 精神科医として33年間、児相の子供たちと接してきた名越康文さんは、第一に、「正しい情報の共有が必要」と指摘する。

「『治安が悪くなる』『土地が安くなる』などのネガティブで誤った噂は、正確な情報の100倍速く世の中を回ります。ある人物の印象が初対面の印象で8割決まるように、人々は最初に接したニュースを真実だと思い込む。それを避けるためには、発信する側が『このような施設をつくります』という正しい情報をできるだけ早く発信する必要があります。

 住民説明会では遅すぎるし、そこには共働きで来られない夫婦も多い。SNSなどを駆使して、情報を逐一発信して共有するなど、今の時代に即した発信をする姿勢が求められます」

 各地の事例が参考になる。例えば名古屋市(愛知県)は、昨年5月に市内3か所目となる東部児童相談所を開設したが、特筆するトラブルはなかったという。

「児童虐待が全国的に問題になるなか、児相開設にあたっては工事着工前から周辺住民に資料を配布し、地域の町内会長のようなかたの協力を得るなど、さまざまな手法で周知しました。有名ブランドや飲食店が立ち並ぶ港区とは違い、倉庫や工場の多い地域だったこともスムーズに進んだ理由の1つかもしれませんが、周辺住民にご理解をいただき、無事開設できました」(名古屋市子ども福祉課担当者)

 港区と同じ東京都の世田谷区は、2020年4月に2か所目となる新たな児相の開設を目指して住民との話し合いを進めている。

「これまでに近隣住民への説明会を2度行いましたが、目立った反対はありません。説明会のほかにも、関係各所への情報提供を徹底し、さまざまなリサーチも行っています。そもそも世田谷区は子育て支援について地域のかたの参加と協働を掲げてきた実績があり、そうした積み重ねによって区民の理解をいただいているのかもしれません」(世田谷区子ども・若者部児童相談所開設準備担当者)

関連キーワード

関連記事

トピックス

2011年に放送が開始された『ヒルナンデス!!』(HPより/時事通信フォト)
《日テレ広報が回答》ナンチャン続投『ヒルナンデス!』打ち切り報道を完全否定「終了の予定ない」、終了説を一蹴した日テレの“ウラ事情”
NEWSポストセブン
青森県東方沖地震を受けての中国の反応は…(時事通信フォト)
《完全な失敗に終わるに違いない》最大震度6強・青森県東方沖地震、発生後の「在日中国大使館」公式Xでのポスト内容が波紋拡げる、注目される台湾総統の“対照的な対応”
NEWSポストセブン
安福久美子容疑者(69)の高場悟さんに対する”執着”が事件につながった(左:共同通信)
《名古屋主婦殺害》「あの時は振ってごめんねって会話ができるかなと…」安福久美子容疑者が美奈子さんを“土曜の昼”に襲撃したワケ…夫・悟さんが語っていた「離婚と養育費の話」
NEWSポストセブン
卓球混合団体W杯決勝・中国-日本/張本智和(ABACA PRESS/時事通信フォト)
《日中関係悪化がスポーツにも波及》中国の会場で大ブーイングを受けた卓球の張本智和選手 中国人選手に一矢報いた“鬼気迫るプレー”はなぜ実現できたのか?臨床心理士がメンタルを分析
NEWSポストセブン
数年前から表舞台に姿を現わさないことが増えた習近平・国家主席(写真/AFLO)
執拗に日本への攻撃を繰り返す中国、裏にあるのは習近平・国家主席の“焦り”か 健康不安説が指摘されるなか囁かれる「台湾有事」前倒し説
週刊ポスト
《悠仁さまとの差》宮内庁ホームページ“愛子内親王殿下のご活動”の項目開設に「なぜこんなに遅れたのか」の疑問 皇室記者は「当主の意向が反映されるとされます」
《悠仁さまとの差》宮内庁ホームページ“愛子内親王殿下のご活動”の項目開設に「なぜこんなに遅れたのか」の疑問 皇室記者は「当主の意向が反映されるとされます」
週刊ポスト
優勝パレードでは終始寄り添っていた真美子夫人と大谷翔平選手(キルステン・ワトソンさんのInstagramより)
《大谷翔平がWBC出場表明》真美子さん、佐々木朗希の妻にアドバイスか「東京ラウンドのタイミングで顔出ししてみたら?」 日本での“奥様会デビュー”計画
女性セブン
パーキンソン病であることを公表した美川憲一
《美川憲一が車イスから自ら降り立ち…》12月の復帰ステージは完売、「洞不全症候群」「パーキンソン病」で活動休止中も復帰コンサートに懸ける“特別な想い”【ファンは復帰を待望】 
NEWSポストセブン
「交際関係とコーチ契約を解消する」と発表した都玲華(Getty Images)
女子ゴルフ・都玲華、30歳差コーチとの“禁断愛”に両親は複雑な思いか “さくらパパ”横峯良郎氏は「痛いほどわかる」「娘がこんなことになったらと考えると…」
週刊ポスト
話題を呼んだ「金ピカ辰己」(時事通信フォト)
《オファーが来ない…楽天・辰己涼介の厳しいFA戦線》他球団が二の足を踏む「球場外の立ち振る舞い」「海外志向」 YouTuber妻は献身サポート
NEWSポストセブン
海外セレブも愛用するアスレジャースタイル(ケンダル・ジェンナーのInstagramより)
「誰もが持っているものだから恥ずかしいとか思いません」日本の学生にも普及する“カタチが丸わかり”なアスレジャー オフィスでは? マナー講師が注意喚起「職種やTPOに合わせて」
NEWSポストセブン
山上徹也被告(共同通信社)
「旧統一教会から返金され30歳から毎月13万円を受け取り」「SNSの『お金配ります』投稿に応募…」山上徹也被告の“経済状況のリアル”【安倍元首相・銃撃事件公判】
NEWSポストセブン