国内

44年前、今上天皇の沖縄初訪問で起きた火炎ビン事件の意味

沖縄に心を寄せられてきた天皇・皇后両陛下(写真/JMPA)

 声なき人々の苦しみに寄り添い続けた今上天皇にとって、特に思い入れの深い地が沖縄だろう。戦前は唯一の地上戦の舞台となり、戦後は米軍基地と向き合わされてきた沖縄を、今上天皇は折にふれて訪れてきた。初訪問は皇太子時代の1975年のこと。本土から2400人の機動隊員が派遣される厳戒態勢の中、事件は起こってしまう。『天皇メッセージ』著者のノンフィクション作家・矢部宏治氏が振り返る。

 * * *
 1975年(昭和50年)7月17日、明仁皇太子は沖縄海洋博の開会式出席のため、美智子妃とともに那覇空港に到着しました。

 当日の天候は晴れ、気温は30度。肌がヒリヒリするような強烈な日差しの中、皇太子ご夫妻は、午後0時40分に空港を出発し、車で沖縄本島の最南端へ向かいました。「ひめゆりの塔」を始めとする沖縄戦の南部戦跡をめぐり、慰霊の祈りをささげるための旅でした。

「石ぐらい投げられてもいい。そうしたことに恐れず、県民のなかに入っていきたい」

 沖縄訪問直前、周囲にそう語っていた明仁皇太子ですが、この日、皇太子をめがけて投げられたのは「石ぐらい」ではすまなかったのです。

 訪問当日、午後1時5分、那覇空港から南部の戦跡に向かう皇太子の車列が、戦争中、もっとも悲惨な戦いが展開された本島最南端の糸満市に入って数分後に最初の事件が起こります。

 左手に立つ白銀病院の3階から、10数本のガラス瓶やスパナ、石などが車列に投げつけられ、後続の警察車両を直撃したのです。幸い皇太子ご夫妻の車には何も当たらず、病院に偽装入院して犯行におよんだ過激派の活動家ふたりも、そのあとすぐに逮捕されました。

 さらに午後1時19分、一行は、ひめゆりの塔に到着します。そして皇太子ご夫妻がひめゆり記念会会長(源ゆき子氏)から塔の前で説明を受けていた午後1時23分、塔の横に大きく口をあけた洞穴から這い出してきた沖縄解放同盟の活動家、知念功が、皇太子ご夫妻の前方数メートルの場所に火炎ビンを投げつけたのです。

 献花台の手前の柵にあたって炎上した炎は、一瞬高く燃え上がり、明仁皇太子と美智子妃の足元まで流れていきました。ひめゆりの塔の前で火炎ビンを投げられ、現場は大混乱におちいりましたが、それでも明仁皇太子はスケジュールを変えず、煙を大量に吸いこんだ服も着替えず、2キロほど離れた海岸近くにある次の慰霊地「魂魄の塔」へ向かいました。

◆「この地に心を寄せ続けていく」

 長い一日がようやく終わろうとする午後10時、次の「談話」が報道陣に文書で配られました。

関連キーワード

関連記事

トピックス

鉄板焼きデートが目撃されたKing & Princeの永瀬廉、浜辺美波
《デートではお揃い服》お泊まり報道の永瀬廉と浜辺美波、「24時間テレビ」放送中に配慮が見られた“チャリT”のカラー問題
NEWSポストセブン
経済同友会の定例会見でサプリ購入を巡り警察の捜査を受けたことに関し、頭を下げる同会の新浪剛史代表幹事。9月3日(時事通信フォト)
《苦しい弁明》“違法薬物疑惑”のサントリー元会長・新浪剛史氏 臨床心理士が注目した会見での表情と“権威バイアス”
NEWSポストセブン
海外のアダルトサイトを通じてわいせつな行為をしているところを生配信したとして男女4人が逮捕された(海外サイトの公式サイトより)
《公然わいせつ容疑で男女4人逮捕》100人超える女性が在籍、“丸出し”配信を「黙認」した社長は高級マンションに会社登記を移して
NEWSポストセブン
2才の誕生日を迎えた悠仁さま(写真/宮内庁提供)
【9月6日で19才に】悠仁さま、40年ぶりの成年式へ 御料牧場、小学校の行事、初海外のブータン、伊勢新宮をご参拝、部活動…歩まれてきた19年を振り返る 
女性セブン
麻薬取締法違反で逮捕された俳優の清水尋也容疑者(26)
「同棲していたのは小柄な彼女」大麻所持容疑の清水尋也容疑者“家賃15万円自宅アパート”緊迫のガサ当日「『ブーッ!』早朝、大きなクラクションが鳴った」《大家が証言》
NEWSポストセブン
当時の水原とのスタバでの交流について語ったボウヤー
「大谷翔平の名前で日本酒を売りたいんだ、どうかな」26億円を詐取した違法胴元・ボウヤーが明かす、当時の水原一平に迫っていた“大谷マネーへの触手”
NEWSポストセブン
麻薬取締法違反で逮捕された俳優の清水尋也容疑者(26)
《同居女性も容疑を認める》清水尋也容疑者(26)Hip-hopに支えられた「私生活」、関係者が語る“仕事と切り離したプライベートの顔”【大麻所持の疑いで逮捕】
NEWSポストセブン
サントリー新浪剛史会長が辞任したことを発表した(X、時事通信フォト)
大麻成分疑いで“ガサ入れ”があったサントリー・新浪剛史元会長の超高級港区マンション「かつては最上階にカルロス・ゴーンさんも住んでいた」
NEWSポストセブン
賭博の胴元・ボウヤーが暴露本を出版していた
大谷翔平から26億円を掠めた違法胴元・ボウヤーが“暴露本”を出版していた!「日本でも売りたい」“大谷と水原一平の真実”の章に書かれた意外な内容
NEWSポストセブン
ロコ・ソラーレ(時事通信フォト)
《メンバーの夫が顔面骨折の交通事故も》試練乗り越えてロコ・ソラーレがミラノ五輪日本代表決定戦に挑む、わずかなオフに過ごした「充実の夫婦時間」
NEWSポストセブン
サークル活動にも精を出しているという悠仁さま(写真/共同通信社)
悠仁さまの筑波大キャンパスライフ、上級生の間では「顔がかっこいい」と話題に バドミントンサークル内で呼ばれる“あだ名”とは
週刊ポスト
米カリフォルニア州のバーバンク警察は連続“尻嗅ぎ犯”を逮捕した(TikTokより)
《書店で女性のお尻を嗅ぐ動画が拡散》“連続尻嗅ぎ犯” クラウダー容疑者の卑劣な犯行【日本でも社会問題“触らない痴漢”】
NEWSポストセブン