「払われた多くの尊い犠牲は、一時の行為や言葉によってあがなえるものでなく、人々が長い年月をかけてこれを記憶し、一人一人、深い内省の中にあって、この地に心を寄せ続けていくことをおいて考えられません」(抜粋)

 これから自分は国民と共に長い年月をかけて、沖縄が過去に払った尊い犠牲に対し、記憶しつづけ、考えつづけ、心を寄せつづけることを約束しますという、皇太子の明確なメッセージでした。

 一方、壕のなかに1週間ひそみ、皇太子ご夫妻に火炎ビンをなげつけた知念功と、もうひとりの小林貢(共産同・戦旗派)ですが、彼らも皇太子を傷つけるようなテロ行為が目的ではなく、昭和天皇や日本政府の戦争責任を問うことが目的だったと著書に書いています。

 事実、火炎ビンも明仁皇太子と美智子妃に当たらないよう、少し離れた柵の内側に投げつけています。

 この皇太子の沖縄訪問の警備責任者で、事件の2週間後、責任を問われて警察庁警備課長を解任された佐々淳行氏は、事件の翌日、沖縄県に住む有識者300人に対し、緊急世論調査を実施しています。

 その結果を簡単にまとめると、人びとの感想は、【1】長い間モヤモヤしていたものが、あの一発でふっきれた、【2】皇太子ご夫妻に当たらなくてよかった、【3】過激派はイヤだ、【4】皇太子ご夫妻には好感を抱いた、というものだったそうです。

 決して「やらせ」というわけではなく、結果として沖縄と本土の間で「無意識の共同作業」が行なわれ、両者が関係を修復する糸口が作られたということもできるでしょう。

 本当の政治というのは、無数の人びとの思いや激情が交錯するなか、こうしてぎりぎりの着地点を求め、そこに一瞬だけ収斂し、また次の着地点を求めて動き出していく。そういうものなのかもしれません。

*矢部宏治著『天皇メッセージ』(『戦争をしない国 明仁天皇メッセージ』増補改訂版。http://sgkcamp2.tameshiyo.me/MESSAGEで全文無料公開中)より

関連キーワード

関連記事

トピックス

女優の趣里とBE:FIRSTのメンバーRYOKIが結婚することがわかった
女優・趣里の結婚相手は“結婚詐欺疑惑”BE:FIRST三山凌輝、父の水谷豊が娘に求める「恋愛のかたち」
NEWSポストセブン
タレントで医師の西川史子。SNSは1年3ヶ月間更新されていない(写真は2009年)
《脳出血で活動休止中・西川史子の現在》昨年末に「1億円マンション売却」、勤務先クリニックは休職、SNS投稿はストップ…復帰を目指して万全の体制でリハビリ
NEWSポストセブン
中川翔子インスタグラム@shoko55mmtsより。4月に行われた「フレンズ・オブ・ディズニー・コンサート2025」には10周年を皆勤賞で参加し、ラプンツェルの『自由への扉』など歌った。
【速報・中川翔子が独立&妊娠発表】 “レベル40”のバースデーライブ直前で発表となった理由
NEWSポストセブン
『ザ・ノンフィクション』に出演し話題となった古着店オーナー・あいりさん
〈一緒に働いている男性スタッフは彼氏?〉下北沢の古着店社長・あいりさん(20)が明かした『ザ・ノンフィクション』の“困った反響”《SNSのルックス売りは「なんか嫌」》
NEWSポストセブン
“凡ちゃん”こと大木凡人(ぼんど)さんにインタビュー
「仕事から帰ると家が空っぽに…」大木凡人さんが明かした13歳年下妻との“熟年離婚、部屋に残されていた1通の“手紙”
NEWSポストセブン
太田基裕に恋人が発覚(左:SNSより)
人気2.5次元俳優・太田基裕(38)が元国民的アイドルと“真剣同棲愛”「2人は絶妙な距離を空けて歩いていました」《プロアイドルならではの隠密デート》
NEWSポストセブン
『ザ・ノンフィクション』に出演し話題となった古着店オーナー・あいりさん
《“美女すぎる”でバズった下北沢の女子大生社長(20)》「お金、好きです」上京1年目で両親から借金して起業『ザ・ノンフィクション』に出演して「印象悪いよ」と言われたワケ
NEWSポストセブン
奈良公園で盗撮したのではないかと問題視されている写真(左)と、盗撮トラブルで“写真撮影禁止”を決断したある有名神社(左・SNSより、右・公式SNSより)
《観光地で相次ぐ“盗撮”問題》奈良・シカの次は大阪・今宮戎神社 “福娘盗撮トラブル”に苦渋の「敷地内で人物の撮影一切禁止」を決断 神社側は「ご奉仕行為の妨げとなる」
NEWSポストセブン
“凡ちゃん”こと大木凡人(ぼんど)さんにインタビュー
《“手術中に亡くなるかも”から10年》79歳になった大木凡人さん 映画にも悪役で出演「求められるのは嬉しいこと」芸歴50年超の現役司会者の現在
NEWSポストセブン
花の井役を演じる小芝風花(NHKホームページより)
“清純派女優”小芝風花が大河『べらぼう』で“妖艶な遊女”役を好演 中国在住の実父に「異国まで届く評判」聞いた
NEWSポストセブン
第一子を出産した真美子さんと大谷
《デコピンと「ゆったり服」でお出かけ》真美子さん、大谷翔平が明かした「病院通い」に心配の声も…出産直前に見られていた「ポルシェで元気そうな外出」
NEWSポストセブン
2000年代からテレビや雑誌の辛口ファッションチェックで広く知られるようになったドン小西さん
《今夏の再婚を告白》デザイナー・ドン小西さんが選んだお相手は元妻「今年70になります」「やっぱり中身だなあ」
NEWSポストセブン