◆専業主婦は“子供をどう育てたか”で評価される
母娘を襲った悲劇の背景に何があるのだろうか。精神科医の片田珠美さんは、「母子一体感の強さ」を指摘する。
「報道を見る限りでは、母と娘の一体感が非常に強いと感じます。この状態の母親は、子供がいじめられて追い詰められると、それに同一化して“子供がダメなら自分もダメなんだ”と思い込んでしまう。今回のケースでは、娘の書いたメモに『しにたい』とあったのを見た母親がつらさのあまり、“いじめられやすい子に育てた私が悪い”と自分を責めたのかもしれません。同時に精神的に不安定でうつ状態から抜け出せなくて、“つらい状況から娘を救うには、この子を殺して自分も死ぬしかない”と思い詰めた可能性があります」
また、もともと優秀な「いい子」であるほど、トラブルが起きた時に母親が心理的に追い詰められる可能性が高いという。
「授業参観で積極的に発言するような“いい子”だったのは、勉強ができて先生や友達にも好かれる、いわば『パーフェクトチャイルド』を親が求めていたからかもしれません。そんな中でいじめや友達同士のトラブルが起きてしまうと、お母さんもまた傷つき、追い詰められやすいのです」(片田さん)
「自分を責めるより、いじめの解決が先だ」との声もあるだろうが、Aちゃんの母親は娘を守るため一生懸命だった。
そこで学校とともに立ちふさがったのは「親同士の関係」という障壁だ。前述のように、周囲では、一部にAちゃんの母親の行動に否定的な意見があったとされている。
「いじめにあっている子供の母親が、何とかしてあげたいと思って行動を起こしたとします。ですが、“子供のけんかに親がしゃしゃり出るべきでない”と考える保護者も、いまだ少なくありません。それによって周囲のママ友との関係が悪化し、いじめがよりひどくなることだってあります。それを恐れ、直接の抗議や対策を講じることをためらうケースも多い。子供思いの母親ほど、何もできない無力感に苛まれやすいのです」(片田さん)
この指摘に大きくうなずくのは、母親同士の葛藤を描いた漫画『ママ友がこわい』(KADOKAWA)の作者で、イラストレーターの野原広子さんだ。
「ママ友とのトラブルを取材した時、多くの母親は『口が裂けても言えない』『どこから漏れるかわからない』と目を伏せました。ママ友の世界で最も恐ろしいのは、一度でも関係にひびが入ると埋まることがないこと。そして、影響力のある一人がそっぽを向けば、それにならってみんながそっぽを向くことです。
小さな子供と手をつないだママたちの集まりは、一見すると明るく楽しそうですが、彼女たちはトラブルを恐れながら慎重に生きているのです」(野原さん)