その少し前に村上龍の『限りなく透明に近いブルー』がベストセラーとなり、少し後には田中康夫の『なんとなく、クリスタル』がベストセラーとなった。江藤淳は前者を激しく批判し、後者を肯定した。それを分析して世に出た新しい批評家が『アメリカの影』の加藤典洋だった。
そのあたりのことを体感出来る最後の世代が今六十歳ぐらい、つまり私たちだろう。体感出来るが、しかし、全体像を俯瞰するには若すぎた。文藝春秋の名編集者だった斎藤禎(昭和十八年生まれ)はそれが出来る貴重な人だ。だからこれはとても大事な本だと思う。
※週刊ポスト2019年2月15・22日号