『¥マネーの虎』は、放送時から現在まで、インターネットと親和性が高い番組。強烈な“虎”と必死な志願者、白熱した鍔迫り合いは時にいきすぎる。真剣さを一周して珍妙な光景に見えてくる。もう、めちゃくちゃツッコミたくなるポイントが多いんだ。また、酷く過激な番組でもある。“虎”が志願者の人格否定など日常茶飯事。マズいものを食べさせられた場合は「うちのスタッフがこのメニューを提案したら殴ってるでしょうね……」と脅かす。今となったら炎上案件だが、当時は許されていた。テレビに映る出来事と日常が切り離されていたのだろう。気に入らない番組をネットから潰す、といった考え方もなかった気がする。
『就活の虎CHANNEL』で「当時、2ちゃんねる見たら岩井が“虎”の中で1番バカって書いてあってショックだったなぁ」と岩井社長。こんなトークが放送終了してから15年も経つのに繰り広げられている。
番組放送時は、インターネットの黎明期。若い志願者が持っていくるネットを使ったプランを「分からないから!」と頭ごなしに否定する“虎”もいた。会社が30年以上続く確率は0.02%、栄華を極めていた“虎”が現在も輝き続けているとは限らない。出資者に対して舌鋒鋭く追及していた内容も、2019年からすれば頓馬に映ることも。「コイツら、分かってないなぁ」と未来人的目線でディスれることも、いまだにネットで人気な理由のひとつだろう。当時はボロクソに言われていた出資者の企画が抜群だったりするなんてことも(アニメキャラの抱き枕とか)。
話は少し逸れるが、別の媒体で、“虎”の一人だった美空ひばりの息子・加藤和也社長は「ネットでこんなに話題になるなら出なかったよ」とインタビューで語っていた。『¥マネーの虎』は時代とともに捉え方が変わる番組。話題が尽きないから風化しない。それゆえにファンは増え続け、『就活の虎CHANNEL』で番組裏話が求められる。
“虎”は自身の発言が詳細に記録されるなんて、考えてもいなかっただろう(小林敬のキレる発言集なんてものもある)。僕は『¥マネーの虎』で仕事の厳しさ、経営することの大変さを知ったつもりだ。まさか、ここにきてメディアで発言したことが一生残るといった怖さを“虎”から学ぶとは……。ともかく、未来のことなど万能感に満ちたドヤ顏で語る”虎”でさえも分からなかったわけで。つまり「絶対!」はないってこと。断定する発言だけには気をつけようと思う。
●ヨシムラヒロム/1986年生まれ、東京出身。武蔵野美術大学基礎デザイン学科卒業。イラストレーター、コラムニスト、中野区観光大使。五反田のコワーキングスペースpaoで週1度開かれるイベント「微学校」の校長としても活動中。テレビっ子として育ち、ネットテレビっ子に成長した。著書に『美大生図鑑』(飛鳥新社)。