彼の本音は大統領選の発言によく出ています。安全保障政策では「NATOなど時代遅れ」「日本も韓国も、アメリカに頼らず自分で防衛すべき」。日本については「自動車などの輸出によってアメリカで多くの失業を引き起こしながら、アメリカに防衛を担ってもらっている」と非難している。
今やトランプ大統領が、アメリカの安全保障をリスクにさらしてまで、ヨーロッパや東アジアの同盟国のために進んで一肌脱ぐと心から信じる人はいないでしょう。だからこそ、日本は多国間の安全保障システムの構築という新しいゲームに参加し、外交力を鍛えるべきなのです。日米安保で事足れり、という時代は終わったのです。
ハノイ会談はその始まりになるかもしれない。戦略のかけらもない超大国のリーダーが今、日本にとって極めて危ういディールに手を染めようとしています。
【プロフィール】てしま・りゅういち/外交ジャーナリスト・作家。NHKワシントン支局長時代に9.11テロに遭遇。ハーバード大学国際問題研究所フェローを経て2005年にNHKから独立。インテリジェンス小説『ウルトラ・ダラー』を発表。近著に佐藤優氏との共著『米中衝突 危機の日米同盟と朝鮮半島』がある。
※週刊ポスト2019年3月1日号