これを前座代わりに、1席目は新作『世帯イマジン』。ビストロとは名ばかりの汚い食堂に雇われて生演奏をするピアニストが、次々に襲いかかる店員や客の迷惑行為にボヤき続ける噺で、平和を願うジョン・レノンの「イマジン」の弾き語りをしながら「戦争じゃ!」とキレる、という皮肉な発想が素敵だ。
2席目は古典『住吉駕籠』。東京の『蜘蛛駕籠』の元となった噺で、遊方は米朝の型にアレンジを加えて「ある駕籠屋二人組のついてない一日」をコント風に展開した。殊更にギャグ沢山にするのではなく、この噺の「シチュエーションの可笑しさ」を的確に捉えた好演だ。
遊方はこの会で「関西独特の熱すぎるノリを持ち込むのではなく、腹八分目の『胃もたれしない濃い笑い』で東京にファンを増やしたい」のだという。その狙いは正しい。
●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『噺は生きている』など著書多数。
※週刊ポスト2019年3月1日号