拉致被害者の田中実さん(時事通信フォト)
一方の金正恩の目当てはもちろん、日本との国交正常化後に転がり込んでくる1兆円とも2兆円ともいわれる巨額の戦後補償金です。
そのために、日本を揺さぶる最も切りやすいカードが田中さんと金田さんです。金正恩にとって、拉致被害者全員の帰国は体制そのものを危うくするためとても呑めないが、この2人は同じ養護施設の出身で、日本に家族や身寄りがいない。万が一、帰国させてもハレーションが少ない。金王朝の正統な後継者である金正恩は計算高く、交渉巧者です。その交渉戦術は“差し出すものは最小限に、実利は最大を”という、父・金正日に倣った狡知さと怜悧さを併せ持っています。
北朝鮮は今後も2人の情報を小出しにして、更なる続報を日本のメディアが報じるよう画策する可能性があります。2人を国営テレビなどに出演させて、「日本政府は私たちのために何もしてくれなかった」と安倍政権批判の談話を発表させることもあり得ます。
日本国民の関心を2人に引き付け、拉致問題の“主役”を替わらせるような印象操作を行ない、最終的には2人の帰国で拉致問題を決着させるのが金正恩が考えるシナリオでしょう。
安倍政権も、日露の領土交渉が袋小路に陥るようなら別の外交成果を求めざるを得なくなる。