休憩を挟んで高座に上がった兼好は『短命』。八五郎の明るいキャラに兼好独特のトボケた可笑しさが溢れ、五代目圓楽系の演出の楽しさを独自に進化させている。あれこれ要求された女房が怒るのではなく「案外面白いわね、この遊び」と楽しんじゃうのが兼好らしくて笑った。
29日は深川江戸資料館で「三遊亭遊雀・三遊亭萬橘二人会」。萬橘はヘンな田舎者の芸者が出てくる演出が秀逸な『棒鱈』と物わかりの悪い旦那のバカバカしさが突き抜けている『洒落番頭』。何をやっても一筋縄ではいかない萬橘らしい2席だ。
遊雀は昨年ネタ下ろしをしたという『淀五郎』が素晴らしかった。まず市川團蔵の「皮肉屋」っぷりが豪快でいい。五街道雲助や春風亭一朝の團蔵とは異なる人物造形が新鮮だ。中村仲蔵が淀五郎に具体的なテクニックを伝授するのではなく、「了見」だけを説くのは珍しい演出だが、遊雀の工夫だろう。見事な判官が出来上がったのを脇から見た團蔵が「ハッハッハ!」と大笑いして嬉し泣きしながら言う「俺の目に狂いはなかった……なぁ? そうだろ!」は良い台詞だ。仲蔵、團蔵、ともに淀五郎のことが大好きなのがよくわかる、爽快な『淀五郎』だった。
●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『噺は生きている』など著書多数。
※週刊ポスト2019年3月15日号