ライフ

作家・森瑤子の葛藤と焦燥 バブル期を写すノンフィクション

作家・森瑤子が抱えていた葛藤と焦燥とは?

【著者に訊け】島崎今日子さん/『森瑤子の帽子』/幻冬舎/1836円

【本の内容】
 1978年、森瑤子が「情事」でデビューしたのは38才の時。瞬く間に時代の寵児となった彼女について、本書の冒頭で山田詠美はこう語る。〈「八〇年代から九〇年代にかけてのグラマラスライフを、小説を書くことによって実践した人です。(中略)それまでの作家の中で、小説を読んで、ライフスタイルまで真似したくなる作家はいなかった。森さんが最初じゃない?」〉。近藤正臣、北方謙三、五木寛之、夫や娘、編集者など、森との思い出を洗いざらい著者に打ち明けた内幕から、知られざる実像が浮かび上がる。

 本の表紙の森瑤子は、トレードマークともいえる豪華な帽子をかぶって笑っている。1978年、「情事」でデビューし、1993年に胃がんで亡くなるまで、女性の性、母と娘の葛藤など先駆的なテーマで作品を次々発表、贅沢な暮らしぶりでも読者を魅了した。

「時代と女性というのが私の書きたいことで、女性の意識がドラスティックに変わっていった1960年代、1970年代、1980年代に一番関心があります。その時代を生きた作詞家の安井かずみさんについて書いたあと、次に書きたいと思ったのが森さんでした」

 森と親しかった、山田詠美のすすめがあったという。

「森瑤子というと、キラキラしたゴージャスなイメージですけど、実は繊細で、多面的な深みのある人。『情事』から亡くなるその時まで、自分がこうありたい世界を描き、満たされない欲望を力で現実のものにしていった人です」

 本名伊藤雅代。東京藝大でヴァイオリンを専攻するが音楽の道はあきらめ、広告会社に就職。イギリス人男性と知り合い結婚、ミセス・ブラッキンとなる。専業主婦をへて作家に。藝大時代に憧れた友人の名前に似た森瑤子を筆名に選ぶ。豪奢な衣装と華やかな社交生活でたびたびメディアに登場。カナダの島を買ってプールやテニスコートをつくり、与論島にも別荘をつくった。

「いまの作家にこういう人はいない。高度経済成長や1980年代という時代とリンクして、森さんの欲望もどんどん膨らんでいった。森さんは綺麗な人が好きで、周りにモデルになる人がたくさんいたから、その人たちの着こなしなりライフスタイルなりを自分のものにしていったんですね」

 生まれてから死ぬまでを時系列で描くのではなく、周囲にいた人々の目がとらえた姿を映し出す。山田や五木寛之、北方謙三ら親しかった作家や古くからの友人たちのほか、3人の娘と夫もインタビューに答えている。記憶の中によみがえる森瑤子はさまざまな違う顔を見せ、くり返し死ぬ。

「この本は森瑤子の死という悲劇で終わりますけど、森さんの美意識はハッピーエンドを許さなかったはず。やりたいことを達成した、みごとな人生だったと思います」

◆取材・構成/佐久間文子

※女性セブン2019年3月28日・4月4日号

森瑤子の帽子

関連記事

トピックス

ドジャース入団時、真美子さんのために“結んだ特別な契約”
《スイートルームで愛娘と…》なぜ真美子さんは夫人会メンバーと一緒に観戦しないの? 大谷翔平がドジャース入団時に結んでいた“特別な契約”
NEWSポストセブン
靖国神社の春と秋の例大祭、8月15日の終戦の日にはほぼ欠かさず参拝してきた高市早苗・首相(時事通信フォト)
高市早苗・首相「靖国神社電撃参拝プラン」が浮上、“Xデー”は安倍元首相が12年前の在任中に参拝した12月26日か 外交的にも政治日程上も制約が少なくなるタイミング
週刊ポスト
相撲協会の公式カレンダー
《大相撲「番付崩壊時代のカレンダー」はつらいよ》2025年は1月に引退の照ノ富士が4月まで連続登場の“困った事態”に 来年は大の里・豊昇龍の2横綱体制で安泰か 表紙や売り場の置き位置にも変化が
NEWSポストセブン
三重県を訪問された天皇皇后両陛下(2025年11月8日、撮影/JMPA)
《季節感あふれるアレンジ術》雅子さまの“秋の装い”、トレンドと歴史が組み合わさったブラウンコーデがすごい理由「スカーフ1枚で見違えるスタイル」【専門家が解説】
NEWSポストセブン
俳優の仲代達矢さん
【追悼】仲代達矢さんが明かしていた“最大のライバル”の存在 「人の10倍努力」して演劇に人生を捧げた名優の肉声
週刊ポスト
10月16日午前、40代の女性歌手が何者かに襲われた。”黒づくめ”の格好をした犯人は現在も逃走を続けている
《ポスターに謎の“バツ印”》「『キャー』と悲鳴が…」「現場にドバッと血のあと」ライブハウス開店待ちの女性シンガーを “黒づくめの男”が襲撃 状況証拠が示唆する犯行の計画性
NEWSポストセブン
全国でクマによる被害が相次いでいる(右の写真はサンプルです)
「熊に喰い尽くされ、骨がむき出しに」「大声をあげても襲ってくる」ベテラン猟師をも襲うクマの“驚くべき高知能”《昭和・平成“人食い熊”事件から学ぶクマ対策》
NEWSポストセブン
オールスターゲーム前のレッドカーペットに大谷翔平とともに登場。夫・翔平の横で際立つ特注ドレス(2025年7月15日)。写真=AP/アフロ
大谷真美子さん、米国生活2年目で洗練されたファッションセンス 眉毛サロン通いも? 高級ブランドの特注ドレスからファストファッションのジャケットまで着こなし【スタイリストが分析】
週刊ポスト
超音波スカルプケアデバイスの「ソノリプロ」。強気の「90日間返金保証」の秘密とは──
超音波スカルプケアデバイス「ソノリプロ」開発者が明かす強気の「90日間全額返金保証」をつけられる理由とは《頭皮の気になる部分をケア》
NEWSポストセブン
三田寛子(時事通信フォト)
「あの嫁は何なんだ」「坊っちゃんが可哀想」三田寛子が過ごした苦労続きの新婚時代…新妻・能條愛未を“全力サポート”する理由
NEWSポストセブン
大相撲九州場所
九州場所「17年連続15日皆勤」の溜席の博多美人はなぜ通い続けられるのか 身支度は大変だが「江戸時代にタイムトリップしているような気持ちになれる」と語る
NEWSポストセブン
初代優勝者がつくったカクテル『鳳鳴(ほうめい)』。SUNTORY WORLD WHISKY「碧Ao」(右)をベースに日本の春を象徴する桜を使用したリキュール「KANADE〈奏〉桜」などが使われている
《“バーテンダーNo.1”が決まる》『サントリー ザ・バーテンダーアワード2025』に込められた未来へ続く「洋酒文化伝承」にかける思い
NEWSポストセブン