芸能

『3年A組』菅田将暉はなぜ「説教教師」に陥らなかったのか

菅田将暉はもともと教師志望だったという

 いつの時代も大人と思春期の少年少女たちの関係は難しいものだが、ネットの普及はさらにその構図を複雑化したかのように映る。だが、若者が大人の言葉に響かないわけではない。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が指摘する。

 * * *
「一度でも/ナマで幸せを/体験していれば/コトバの幸せの嘘に/だまされることはない」(谷川俊太郎『幸せについて』)

 印象に残る詩の断片です。詩人の谷川俊太郎氏が自分の本の表紙に刻印したフレーズ。ではもし、このテーマがドラマになったら? いったいどんな作品に仕上がるでしょうか。

 それが現実になりました。『3年A組-今から皆さんは、人質です-』(日本テレビ系)はスタート当初、純文学の世界に通じるような印象がありました。というのも、単純な犯人捜しのサスペンスドラマとは違う匂いを漂わせていたからです。集団に芽生える悪意、SNSのコトバの闇、人はなぜ他者を排除するのか、といった普遍的本質的なテーマについて深く考えることを促していそうだったから。

 ドラマの最後は自己最高視聴率の15.4%を記録。人気の『相棒 season17』(テレビ朝日系)を抜いて今期連ドラ1位の数字に。そして最終回、まさしく谷川俊太郎の詩に響き合うような世界が出現していました。

 主人公・柊一颯(菅田将暉)は美術教師。高校の教室で爆発物使い生徒を人質に立て籠もり「最後の授業」を開始、警察相手の攻防戦をSNSで実況中継……と、そこだけ並べれば奇想天外。ドラマだからこそ可能な、言ってみれば荒唐無稽な舞台設定でしょう。

 しかし、柊の授業のテーマは奇をてらったものではありませんでした。

「なぜクラスメートの景山澪奈は、自殺しなれけばならなかったのか」。まさに現実社会の中で繰り返される苦しみと闇に向き合う。SNSでのいじめ、根拠なき噂に追い詰められる生徒。自殺の原因を探れば探るほど教室内には張り詰めた空気が漂う。

 一番肝心なのは、柊という教師の存在のあり方でした。一つ間違えれば「お説教」に転落してしまう。「先生から教師」への熱き語りは、危険も伴う。

「ナイフを刺せば、血が出る。痛みも伴う。場合によっては、命も奪える。当たり前のことだ。でも今の社会は、こんな当たり前のことに、気がつく暇もないくらいに、せわしなく回り続けてる。相手に何をしたら傷付くのか、何をされたら痛むのか、お前たちには、それに気付かない感情が麻痺した大人には、なってほしくなかった」といった柊のコトバ。

 菅田将暉が演じた柊は異様な集中力を保ち鬼気迫る表情で、彼が語るコトバには妙な生々しさ、肌触りがありました。いったいなぜ、柊のコトバはお説教に陥らなかったのでしょう?

「生徒たちを良い方向に変えてやろう」という、教師にありがちな上から目線ではなく、一人の人間として、生徒と同じ位置に立って、命賭けで「このことだけは、どうしても伝えたい」とフラットな姿勢を一貫して崩さなかったから、ではないでしょうか。

 道徳的押しつけではなく、人としてどうしても伝えたい──そのスタンスを大切に維持したことが、このドラマの成功ポイントだったと思います。そう、菅田さんは「演技」「役者」といった枠すらはみ出し「伝えよう」とする熱量に満ちていました。

関連記事

トピックス

“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
《ママとパパはあなたを支える…》前田健太投手、別々で暮らす元女子アナ妻は夫の地元で地上120メートルの絶景バックに「ラグジュアリーな誕生日会の夜」
NEWSポストセブン
グリーンの縞柄のワンピースをお召しになった紀子さま(7月3日撮影、時事通信フォト)
《佳子さまと同じブランドでは?》紀子さま、万博で着用された“縞柄ワンピ”に専門家は「ウエストの部分が…」別物だと指摘【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
一般家庭の洗濯物を勝手に撮影しSNSにアップする事例が散見されている(画像はイメージです)
干してある下着を勝手に撮影するSNSアカウントに批判殺到…弁護士は「プライバシー権侵害となる可能性」と指摘
NEWSポストセブン
亡くなった米ポルノ女優カイリー・ペイジさん(インスタグラムより)
《米ネトフリ出演女優に薬物死報道》部屋にはフェンタニル、麻薬の器具、複数男性との行為写真…相次ぐ悲報に批判高まる〈地球上で最悪の物質〉〈毎日200人超の米国人が命を落とす〉
NEWSポストセブン
和久井学被告が抱えていた恐ろしいほどの“復讐心”
「プラトニックな関係ならいいよ」和久井被告(52)が告白したキャバクラ経営被害女性からの“返答” 月収20〜30万円、実家暮らしの被告人が「結婚を疑わなかった理由」【新宿タワマン殺人・公判】
NEWSポストセブン
松竹芸能所属時のよゐこ宣材写真(事務所HPより)
《「よゐこ」の現在》濱口優は独立後『ノンストップ!』レギュラー終了でYouTubeにシフト…事務所残留の有野晋哉は地上波で新番組スタート
NEWSポストセブン
山下市郎容疑者(41)はなぜ凶行に走ったのか。その背景には男の”暴力性”や”執着心”があった
「あいつは俺の推し。あんな女、ほかにはいない」山下市郎容疑者の被害者への“ガチ恋”が強烈な殺意に変わった背景〈キレ癖、暴力性、執着心〉【浜松市ガールズバー刺殺】
NEWSポストセブン
英国の大学に通う中国人の留学生が性的暴行の罪で有罪に
「意識が朦朧とした女性が『STOP(やめて)』と抵抗して…」陪審員が涙した“英国史上最悪のレイプ犯の証拠動画”の存在《中国人留学生被告に終身刑言い渡し》
NEWSポストセブン
早朝のJR埼京線で事件は起きた(イメージ、時事通信フォト)
《「歌舞伎町弁護士」に切実訴え》早朝のJR埼京線で「痴漢なんてやっていません」一貫して否認する依頼者…警察官が冷たく言い放った一言
NEWSポストセブン
橋本環奈と中川大志が結婚へ
《橋本環奈と中川大志が結婚へ》破局説流れるなかでのプロポーズに「涙のYES」 “3億円マンション”で育んだ居心地の良い暮らし
NEWSポストセブン
10年に及ぶ山口組分裂抗争は終結したが…(司忍組長。時事通信フォト)
【全国のヤクザが司忍組長に暑中見舞い】六代目山口組が進める「平和共存外交」の全貌 抗争終結宣言も駅には多数の警官が厳重警戒
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《前所属事務所代表も困惑》遠野なぎこの安否がわからない…「親族にも電話が繋がらない」「警察から連絡はない」遺体が発見された部屋は「近いうちに特殊清掃が入る予定」
NEWSポストセブン