「でも彼女と親交のあった五木寛之さんが言うんです。〈森さんが同じ時代に生きた人に与えた一回性の感動というのは、古典のそれの百倍くらいはあったと思う〉って。森さんはこの言葉だけでも報われたんじゃないかと思います。
ラカンは『人間の欲望は他者の欲望だ』と言ったけれど、彼女は他者の欲望をこれでもかというほど叶え、しかも誰に聞いても人柄を褒められる女性なんです。そんなチャーミングで勤勉で、五木さんのいう〈シベリアの農婦〉のような素朴さもありつつ、常に深い哀しみや自己嫌悪を抱えていた彼女を、私は可哀そうだなんて思わない。むしろ自分にしか生きられない人生を生き切ったその魂に、眩しさすら覚えます」
〈最初からRなど愛してはいないのだ。彼女が愛したのは、自分のイマージュが創り出したR’の方だった〉と「死者の声」(自選集収録)に書いた森は、全てにダッシュのついた虚構の世界を自らも生きた。が、それが実は人間の真実かもしれず、消費されることを恐れず、果敢に時代を駆け抜けた彼女を失って以来、この国の右肩も上がらなくなった?
【プロフィール】しまざき・きょうこ/1954年京都府生まれ。甲南大学卒。編集プロダクションを経てライターに。『AERA』での連載「現代の肖像」等で活躍し、インタビューの名手と定評。著書に「現代の肖像」をまとめた『この国で女であるということ』や『安井かずみがいた時代』等。「私はファッションは川久保玲様、音楽は中島みゆき様と、各分野に強烈に好きな女神様が1人いて、その存在がいれば大満足。お布施と称して出費も相当しています(笑い)」。160cm、A型。
構成■橋本紀子 撮影■国府田利光
※週刊ポスト2019年3月22日号