「受け子や出し子を募集する際に、相手に前払いの“保証金”を払わせる。額は10万とか20万とか。成功した場合は保証金の全額と報酬を渡す。この10万すら払えない連中は相当に切羽詰まっているか、ハナから持ち逃げをやろうとしているか。補償金でその人間を見極めて、仕事をふらないようにすることもある」(元幹部)

 奇妙に聞こえるかもしれないが、オレオレ詐欺が求める人材には、悪人として絶妙なバランスが要求されている。他に努力する方法があるにも関わらず、楽をしてすぐに儲けられる方法を選んでしまうくらいには善悪の感覚が麻痺してはいるものの、何をしても平気なわけではない程度に金がほしいという人たちだ。それが、今では必要とされる以上の悪事に踏み出す人間が集まってくるようになってしまった。

 そういった人材の質低下が影響しているのか、この一年ほどで、関係者らがさらわれたり、襲撃されることも珍しくはない。「ハタキ」や「カスリ」といった隠語を使い、オレオレ詐欺の出し子や受け子を狙い撃ちにするような連中が登場したという。東京在住の元受け子の男性が語るのは、オレオレ詐欺の世界が想像以上に“無法地帯”になっていることを如実に表すエピソードだ。

「オレオレの末端(受け子やかけ子)がネットで募集されるようになると、いろんな地域の奴らが出張で集まったりして、その現場だけの即席チームが作られるようになった。関西に行った時は“カスリ”とか“ハタキ”の仕事も請け負った。仲間の受け子を騙して、詐欺で得た金を騙し取るのがカスリ、ハタキはそのまま叩いて奪っちゃう。こうした隠語は、それぞれの地域によって違ったり、微妙にニュアンスが変わってゆくが、元々詐欺の世界で使われてきた言葉から生まれている。

 ネット上で交渉している時は“ダシウケ(出し子や受け子)の仕事だよ”って説明されていたのに、現場行ってみると奪え殴れと指示される。最初はブルった(緊張した)けど、やってみるとこっちのがサツ(警察)にバレにくいし、犯罪やってるわけだから相手も訴えてこない。抵抗されたらガラ(体)さらって山に捨ててくればいい」(元受け子)

 世間を騒がせている深川の「アポ電」強盗殺人事件について大手紙警視庁担当記者は、いわば詐欺師の”未熟さ”が大いに関係していると説明する。

「パクられた三人のうち、少なくとも二人はSNSで地元・長野の友達などに詐欺仕事の勧誘をしており、詐欺で得た金で買ったロレックスや札束の写真をあげて自慢していた。飲み会では詐欺の仕事をやっていると吹聴して回り、江東区で起きた事件については“仲間が殺した”と酒を飲みながら告白していたほど。普通、詐欺師が自分で詐欺をやっているとは言わないでしょう。詐欺で稼いでは全てを使い果たしたのか、すぐに友人に金の無心をする。すでに金銭感覚が麻痺しており、金がないと焦るあまり、タタキ(暴行)や殺しなど手荒いことをやってしまう。連中があまりに未熟だから起きた事件でしょう」(警視庁担当記者)

 容疑者のうち一人が、深川での事件の直前に知人に金を借りようとしていたという一部報道もある。その借金は、前述したような、新たな詐欺に加わるための“保証金”だったのか定かではない。彼らのような詐欺師たちの劣化が、さらに悲惨な事態を引き起こすことにならないか。「オレオレ詐欺」を取り巻く環境の激変に、我々市民はどう対峙していけば良いのか。警察・司法当局による取り締まりの強化を切に願うことくらいなのか。

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