保険診療に詳しい歯科医・坂詰和彦氏の協力を得て、平均的な歯科治療を受けてきた60代男性Aさんと、予防歯科を実践している60代男性Bさんをモデルに、歯科治療費の総額を試算した(現在の診療報酬を基準に3割負担)。
Aさんは部分的に詰めるタイプの銀歯(インレー)が6つ、被せるタイプの銀歯(クラウン)が5つ。すでに抜いた歯が6本あり、ブリッジを2つ、部分入れ歯を2つ使用している。このAさんの例は、厚労省の歯科疾患実態調査が示す平均的な60代の口腔内である(平成28年度公表)。
Aさんの総治療費を試算すると、約28万円にのぼる(自己負担分、以下同)。これはすべて保険で安く治療した場合の額である。抜歯した6本に自費診療のインプラント(1歯あたり約50万円)を選べば、負担額は一気に300万円超になる。
一方のBさんは、予防歯科を実践する歯科医院を20年前から定期的に受診、正しい口腔ケアの指導を受けてきた想定だ。6か所の虫歯は初期で発見され、最小限の治療で済んでいる。総治療費は総計で約6万6000円の試算となった。予防歯科を実践することによる大きな違いがある。
中高年世代の歯には様々なトラブルが起きる。虫歯や歯周病の確かな治療スキルを持った歯科医でなければ、患者の歯を守ることはできない。予防歯科を“歯磨き指導”と考えている安易な歯科医も多いから注意してほしい。歯医者任せにしているだけでは、多額の治療費を払った末に歯を何本も失うだけだ。
●レポート/ジャーナリスト・岩澤倫彦(『やってはいけない歯科治療』著者)
※週刊ポスト2019年4月5日号