この働き方改革について、私は法案の国会審議中から本連載や著書『個人が企業を強くする』(小学館)で「政府が“上から目線”で規制するのは的外れ」「企業経営に対する冒涜であり、無知・無理解の証左」「非正規雇用を拡大して伸縮自在の柔軟な雇用形態を認めるべき」「日本を100%間違った方向に向かわせる」「同一労働同一賃金ではなく、同一生産性同一賃金にすべき」「効率の悪い人材の温存につながる」などと繰り返し批判してきた。しかし結局、そういうお粗末な法律が施行されてしまったわけで、これは日本企業と日本経済にとって大きなマイナス要因となるだろう。
そもそも、政府は働き方改革で何をやりたいのか? 厚生労働省のHPによれば、「投資やイノベーションによる生産性向上とともに、就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮できる環境を作ること」だという。たしかに日本の場合、先進国の中で唯一、20年以上にわたって実質賃金が上がっていないので、この問題を解決するためには生産性を向上させなければならない。
ただし、本連載で何度も指摘してきたように、その最大の原因は間接業務のホワイトカラーの生産性が向上していないことである。日本の製造業は円高が進んだ1980年代に生産性を上げて競争力を維持するため、機械化・自動化を推し進めるとともに工場を海外に移した。だから日本企業のブルーカラーの生産性は、海外の企業と比べても全く遜色がなくなっている。
一方、ホワイトカラーの仕事のやり方は全く改善していない。ホワイトカラーの仕事には定型業務と非定型業務があり、海外の企業は定型業務のアウトソーシングやIT化によってホワイトカラーの生産性を上げてきた。しかし、大半の日本企業は定型業務と非定型業務が霜降り肉のようにないまぜになっていて定型業務を標準化していないため、アウトソーシングもIT化もできないでいる。