芸能

連ドラがまさかの長期化? 時代に逆行する戦略の理由

『科捜研の女』に主演する沢口靖子

 連続ドラマに新しい動きが出ている。長期に渡って、放送する作品が増えているのだ。少し前までは、朝ドラや大河以外ではあまり見られなかった“長期放送ドラマ”の増加。そこには、いったいどんな事情があるのか? テレビ解説者の木村隆志さんが解説する。

 * * *
 18日、『科捜研の女』(テレビ朝日系)の第1話が放送され、視聴率13.7%を記録する好スタートを切りました。第19シリーズとなる今作は、何と1年間に渡る長期放送です。

 その10日前の8日には、『やすらぎの刻~道』(テレビ朝日系)がスタート。こちらも月~金曜に放送される帯ドラマであるにも関わらず、1年間に渡る長期放送です。

 さらに14日スタートの『あなたの番です』(日本テレビ系)も、プライム帯では異例の2クール(半年間)に渡る長期放送。しかも『相棒』(テレビ朝日系)のような1話完結形式ではなく、「1回見逃したら物語がわからなくなる」長編ミステリーであることに驚きの声があがっています。

 近年の連ドラは、通常の1クール(3か月間)でも、かつてのように11~12話放送する作品が少なく、8~9話に留める作品も少なくありません。また、ネットでは、わずか数分間の動画が定着したほか、配信ドラマも1本30分程度の短い作品が主流です。

 今春スタートの3作は、なぜ時代に逆行するような長期放送に挑んでいるのでしょうか?

◆長期放送ドラマの理由は三者三様

 前述した3作が長期放送されているのは、それぞれに異なる事情があります。

 まず『科捜研の女』は、「放送開始から20周年」「テレビ朝日開局60周年」という2つの節目を飾る一大プロジェクト。加えて、1999年のseason1からseason10までは1クール放送だったものの、2011年のseason11で2クール放送に挑み、その後もseason13、15、16、17で約半年間の放送に挑み、安定した視聴率を獲得した実績があります。

「『科捜研の女』なら1年間の放送でも大丈夫」「何よりのファンサービスになるのではないか」という実績に裏付けされた確信があるのでしょう。

 同様に『やすらぎの刻~道』も「テレビ朝日開局60周年記念作」の1つですが、その意味合いは少し異なります。同作は2017年に『帯ドラマ劇場』の第1弾として放送された昼ドラマ『やすらぎの郷』の続編で、しかも2クール放送の実績がありました。

 巨匠・倉本聰さんが脚本を手がけること、石坂浩二さんをはじめとする往年の名優たちがズラリ顔をそろえること、両者に親しみのある高齢層がターゲットであること、比較的リスクの軽い昼帯の放送であることなど、1年間放送するだけの理由がそろっているのです。

 一方、『あなたの番です』が放送されているプライム帯は、注目度が高く、視聴率の獲得が期待されるなどハイリスク。しかし、同作が放送されているドラマ枠『日曜ドラマ』のコンセプトは「話題性と中毒性を持つエッジの効いたエンターテインメント」であり、思い切った勝負に出ているのです。前々作の『今日から俺は!!』、前作の『3年A組』の作風を見ても、「勇気を持って勝負しよう」という姿勢が伝わってくるのではないでしょうか。

◆テレビ番組は長さも売りにできる

 それぞれの事情は異なりますが、3作に共通しているのは、「ターゲットの視聴者層にここでしか見られないドラマ、見たことのないドラマを届けよう」という前向きな制作スタンス。これまではコアターゲットこそあるものの「できるだけ多くの層に見てもらいたい」という制作スタンスでしたが、視聴者嗜好の細分化に合わせて「ある層に深くささるドラマ」を手がける流れが生まれているのです。

 また、「地上波のテレビ番組として、ネットコンテンツとの差別化を図ろう」という狙いもあるでしょう。日本のネットコンテンツは短さを売りにしたものが主流ですが、「テレビ番組は長さも売りにできる」と考えられるからです。

 昨今の視聴者は、「判断が早くなった」「飽きっぽくなった」とひとくくりにされがちですが、必ずしもそうとは言い切れません。テレビマンたちの中に、「視聴率を追うだけでなく、いかに愛情を抱いてもらうか」という視点が芽生えはじめていることもあって、「長く楽しんで愛情を深めてもらいたい」という意図がうかがえるのです。

 その他、「月~土曜の帯ドラマとして半年間放送される朝ドラがヒットを連発している」「2クール以上のほうが海外に販売しやすい」などの理由も、長期放送の理由としてあげられるでしょう。

◆朝、昼に続いて夜の帯ドラマも誕生する?

 山崎豊子さんの小説をドラマ化した2003年の『白い巨塔』と2009年の『不毛地帯』は当時珍しい2クール放送でしたが、今後もそれくらいの大作に再び挑む可能性も考えられます。朝、昼に続いて夜にも半年間放送の帯ドラマが誕生しないとも言い切れませんし、2クール以上の長期放送は、今後もときどき制作されていくのではないでしょうか。

 ただ、視聴率をベースにしたビジネスモデルが大きく変わらない限り、長期放送のドラマがテレビ局にとってハイリスクなものであるのは間違いありません。だからこそ成功したときの成果は大きく、人々の心に残る名作となる上に、単発・1クール・2クール以上の3タイプを見せることで多様性にもつながります。

 テレビ業界にとってさらに重要なのは、成否に関わらず挑戦する姿勢を視聴者に見せ続けること。その意味で、テレビの魅力を保つためにも、長期放送ドラマは、鍵を握る存在なのです。

【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月20本超のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組に出演。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動している。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』『独身40男の歩き方』など。

関連記事

トピックス

真美子さんが完走した「母としてのシーズン」
《真美子さんの献身》「愛車で大谷翔平を送迎」奥様会でもお酒を断り…愛娘の子育てと夫のサポートを完遂した「母としての配慮」
NEWSポストセブン
各地でクマの被害が相次いでいる(クマの画像はサンプルです/2023年秋田県でクマに襲われ負傷した男性)
《コォーってすごい声を出して頭をかじってくる》住宅地に出没するツキノワグマの恐怖「顔面を集中的に狙う」「1日6人を無差別に襲撃」熊の“おとなしくて怖がり”説はすでに崩壊
NEWSポストセブン
「原点回帰」しつつある中川安奈・フリーアナ(本人のInstagramより)
《腰を突き出すトレーニング動画も…》中川安奈アナ、原点回帰の“けしからんインスタ投稿”で復活気配、NHK退社後の活躍のカギを握る“ラテン系のオープンなノリ”
NEWSポストセブン
11歳年上の交際相手に殺害されたとされるチャンタール・バダルさん(21)千葉県の工場でアルバイトをしていた
「肌が綺麗で、年齢より若く見える子」ホテルで交際相手の11歳年下ネパール留学生を殺害した浅香真美容疑者(32)は実家住みで夜勤アルバイト「元公務員の父と温厚な母と立派な家」
NEWSポストセブン
今年の”渋ハロ”はどうなるか──
《禁止だよ!迷惑ハロウィーン》有名ラッパー登場、過激コスプレ…昨年は渋谷で「乱痴気トラブル」も “渋ハロ”で起きていた「規制」と「ゆるみ」
NEWSポストセブン
アメリカ・オハイオ州のクリーブランドで5歳の少女が意識不明の状態で発見された(被害者の母親のFacebook /オハイオ州の街並みはサンプルです)
【全米が震撼】「髪の毛を抜かれ、口や陰部に棒を突っ込まれた」5歳の少女の母親が訴えた9歳と10歳の加害者による残虐な犯行、少年司法に対しオンライン署名が広がる
NEWSポストセブン
新恋人A氏と交際していることがわかった安達祐実
《新恋人発覚の安達祐実》沈黙の元夫・井戸田潤、現妻と「19歳娘」で3ショット…卒業式にも参加する“これからの家族の距離感”
NEWSポストセブン
キム・カーダシアン(45)(時事通信フォト)
《カニエ・ウェストの元妻の下着ブランド》直毛、縮れ毛など12種類…“ヘア付きTバックショーツ”を発売し即完売 日本円にして6300円
NEWSポストセブン
レフェリー時代の笹崎さん(共同通信社)
《人喰いグマの襲撃》犠牲となった元プロレスレフェリーの無念 襲ったクマの胃袋には「植物性のものはひとつもなく、人間を食べていたことが確認された」  
女性セブン
大谷と真美子夫人の出勤ルーティンとは
《真美子さんとの出勤ルーティン》大谷翔平が「10万円前後のセレブ向けベビーカー」を押して球場入りする理由【愛娘とともにリラックス】
NEWSポストセブン
各地でクマの被害が相次いでいる(秋田県上小阿仁村の住居で発見されたクマのおぞましい足跡「全自動さじなげ委員会」提供/PIXTA)
「飼い犬もズタズタに」「車に爪あとがベタベタと…」空腹グマがまたも殺人、遺体から浮かび上がった“激しい殺意”と数日前の“事故の前兆”《岩手県・クマ被害》
NEWSポストセブン
「秋の園遊会」でペールブルーを選ばれた皇后雅子さま(2025年10月28日、撮影/JMPA)
《洋装スタイルで魅せた》皇后雅子さま、秋の園遊会でペールブルーのセットアップをお召しに 寒色でもくすみカラーで秋らしさを感じさせるコーデ
NEWSポストセブン