また、20歳の留学生と、ドイツで就職した25歳と、結婚移住して子育て中の30歳と、転勤で渡独した40歳とでは、海外生活で体験することがまったくちがいます。1年でドイツ語をかなり習得する人もいれば、いつまで経っても勉強せず話せない人もいる。
なぜそういったちがいを差し置いて、滞在歴で上下関係をつくりたがるんでしょう。
◆海外にまで「上下」を持ち込まれるのは面倒くさい
そもそも、「長くいる人間のほうが上」という考えは、とても日本的ですよね。部活でも企業でも、組織に身を置いている期間が長いことはそれだけでステータスになる。「芸歴」なんかが顕著です。後輩は先輩を立て、気を遣うぶん、先輩は後輩の面倒を見るし、なにかあったら責任をとる。ギブ&テイク。
しかし、海外移住の理由や目的、現地でのライフスタイルは人によって大きくちがうので、いちいち海外でまで上だの下だのやられると、「ことさら面倒くさい」感があります。「日本という国を出てまで『先輩』を理由にいばりますか?」と。
「長く暮らしている自分のほうが正しい」
「あとから来た人に対してはえらそうに振舞ってもいい」
わたしはこんな考えを、『在外邦人先輩風症候群』と、こっそり呼んでいます。
「10年も野球ファンをやっていればそれくらいわかるよ。君はまだまだだね」といばる人と同じ。要は、先輩ぶりたいのです。
本人は意地悪している気なんてありません。むしろ、「まちがった考えを自分が訂正してやろう」くらいに思っている。年上だから、先輩だから、自分のほうがよく知っているし、より正しい答えを出せると確信している。後輩の反論なんて許さない。それが『在外邦人先輩風症候群』です。
◆関係作りがフラットなドイツ
「歴」を理由に上に立ちたがる人はどこにでもいますが、あえて『在外邦人』とつけるのは、日本を出ても日本的な人間関係をつくりたがるからです。
そもそもドイツでは、日本的な「上下関係」という考え自体があまりありません。
大人どうしならまずは互いに丁寧に話すのがマナーで、60代のご近所さんだって最初はわたしに丁寧語を使っていました(フレンドリーな人は最初からタメ口だけど、その場合こちらもタメ口でOK)。語学学校の先生だって、最初に「タメ口でいいか」を確認します。
上司だから、先輩だから、なにを言われても反論しない……なんてことはありません。客が横柄なら店員の態度も悪くなります。
「先輩後輩」「上下関係」という価値観が薄いドイツでは、えらそうに振る舞う大義名分がないのです(教授のように「尊敬される立場」というのはありますが)。