元気、勇気、感動、そういったものは結局、自分自身で自分の中に作り出していくしかない。老いにしても病にしても、自分の問題は、最後は自分で乗り越えていくしかないのです。他人から元気をもらっても、それは一時しのぎの「輸血」にはなるでしょうが、本当の自分の血液ではありません。
血液を作り出し、体を鍛えていくにはどうすればいいのか。栄養のあるものを食べて、適度な運動をしていくことですよね。心を鍛えるときにそれに相当するのが、古典を読み、歴史をよく知ることなのです。
興福寺でも時折企画しますが、仏像展などが全国の博物館、美術館などで開催され、活況を呈しています。神社仏閣への観光旅行も定番です。「歴史を知る」最初の入り口は、そういうところでもいいと思います。大切なのは、身近にあるちょっとしたきっかけを大切にしてほしいということです。
心を鍛え、また成熟した老いを得るには、日々の生き方の積み重ねが大切です。一朝一夕にしてできるものではない。だからこそ、毎日を大切に生きてほしいと私は思います。
●たがわ・しゅんえい/1947年奈良県生まれ。立命館大学卒業。法相宗の僧侶で、大本山興福寺貫首・法相宗管長・帝塚山大学特別客員教授。著書に『貞慶「愚迷発心集」を読む』『観音経のこころ』(春秋社)、『旅の途中』(日本経済新聞社)、『阿修羅を究める』(共著、小学館刊)など。
◆取材・文/小川寛大(『宗教問題』編集長)
※週刊ポスト2019年5月17・24日号