シャルリの関係者としてつねに警護がつき、「わたしの自由は死んだ」と繰り返す。年月の感覚もなくなる。強いトラウマによるパニック、麻痺、解離の症状。人々の「ツナミ」のような応援も彼女を疲弊させた。最果ての海辺の屋台にも「わたしはシャルリ」の看板。肉体が溶けていく感覚。あるとき思いだした「安全な場所」へ赴くことで少しずつ記憶が甦る。それと同時に絵に色がつき始める。
同テロに対するデモでフランスの人々が叫んだのは、「自由、平等、ユーモア!」だった。苦しみの極限でも発揮されるユーモアに、彼らの強靭な知性を感じる。主人公は何によって「軽さ」をとりもどすか? 本作の紹介に尽力した訳者に感謝したい。
※週刊ポスト2019年6月7日号