JALの『なつぞら』特別塗装機お披露目会に参加した広瀬すず(時事通信フォト)
◆新たな登場人物に愛着が持てない
その点、現在の『なつぞら』は「北海道・十勝編」の登場人物がほとんど出て来なくなり、「東京・新宿編」「アニメーション編」の新たなメンバーばかり。視聴者に新たなメンバーへの愛着が生まれるまでの間は、苦戦が続くのかもしれません。
もちろん制作サイドも無策だったのではなく、第5週の段階で、なつ(広瀬すず)を上京させて、「東京・新宿編」「アニメーション編」の登場人物をひと通り見せました。これは「いきなりガラッと変えるのではなく、視聴者に予告編のように見せておくことで違和感を防ぎ、期待感を高めよう」という狙いでしたが、「北海道・十勝編」への愛着が深かったせいか、あまり効果がないようなのです。
「北海道・十勝編」の中でも、なつが上京した第5週が最も低い20.7%に留まり、初の10%台を2度も記録したことからも、視聴者が何を望んでいるかは歴然。あらためて振り返ると「北海道・十勝編」は、家族を中心にした温かい人間模様と、豊かな自然をフィーチャーしていました。対して、「東京・新宿編」「アニメーション編」は、なつがアニメーターを目指すシーンばかりになり、作品そのものがガラッと変わった感があります。
また、リアルタイムで朝ドラを見る視聴者層と相性が悪そうなのは、なつがとんとん拍子で夢を実現させていくこと。上京してわずか半年間で希望の会社「東洋動画」に入社し、セル画に色を塗る仕上課に配属されたと思ったら、アッと言う間に希望の作画課に入るチャンスを得るなど、実に恵まれているのです。
勤め先の「東洋動画」だけでなく、「ベーカリーカフェ 川村屋」「おでん屋 風車」の人々からも親切にされるなど、なつにはピンチが少なく、苦労をしている描写もさほどありません。リアルタイムで朝ドラを見る視聴者層は、ピンチや苦労のステップを重視し、ハートフルなシーンを好む保守派が多いだけに、物足りなさを感じているのではないでしょうか。
◆アニメーションの魅力をどう伝えるか
6月10日からの第11週では、「北海道・十勝編」の登場人物たちが何人か登場するようですが、やはり視聴者が見たいのは、柴田泰樹(草刈正雄)、柴田富士子(松嶋菜々子)、山田天陽(吉沢亮)の3人。「ほとんど出なくなった人気キャラたちをどう扱うか」が直近の課題であるとともに、今後は「『東京・新宿編』『アニメーション編』の登場人物たちをいかに魅力的なキャラにしていくか」が鍵を握っているのです。
ただ、現在のように視聴率が下がり、否定的な声が増えているのは、「北海道・十勝編」の出来がよかったからであり、その反動にほかなりません。「いろいろ言いたくなるけど、けっきょく見たくなる」「毎日見ているうちにヒロインをはじめ、多くのキャラを好きになっている」という朝ドラの醍醐味が失われない限り、これ以上のピンチにはならないような気がします。